こん、ばんわです(深夜)
お久しぶりになってしまいました、ちょっとバタバタしておりましてすみません!

今回は趙劉前提の、水魚のお話。
いろいろ爽やかにこじれてます、すみません・・・
ひねくれたお話を時々書きたくなるので。
短いお話です、お付き合い頂けましたら幸いです~

いつも拍手、コメント下さいましてありがとうございます!
毎回やる気と愛情を頂いております!!
見て下さる方の存在は書き手にとっての何よりの心の糧となっております、ただただ感謝の一言です。
これからもどうぞ良しなに・・・

 

一人だけど独りじゃない

 

 

 

職務の最中、ふと己の手に目が行く。

この手を大切そうに包み、温みを分けてくれた相手の優しい笑顔が頭に浮かんだ。

いま、彼は何をしているのだろうか、怪我などしていないだろうか、あれから。

「殿」

静かな呼び掛けから我に返る。

目の前の軍師が、難しい顔をしてこちらを見つめていた。

「聞いておりましたか?私の話を」

大きな目を一瞬泳がせ、劉備は半笑いで頷く。

「っ、ああ、聞いていたとも。春祭りの話だろう」

そんな主の様子に臥竜の片眉が、機嫌悪そうにちょっと上がった。

「初めからずっと、そのお話ですけれども」

「分かっている、例年通りで良いのだろう?」

羽扇をはたりと扇ぎ、諸葛亮が深い溜息をつく。

「・・・いいえ。変更が出ました、ということでお話しているのですが」

「・・・・・あ・・・・・」

小声ですまぬ、と劉備が謝ると、相手は口元を引き結んで首を振った。

「しっかりなさって下さい。貴方様がそのようでは皆が心配いたします」

諸葛亮の静かな叱咤に、劉備は口元へ手を当てて眉根に軽く皺を寄せる。

「ああ・・・そうだな、うん」

諸葛亮が言うように、自分がこんなざまではいけない、と頭では分かっているのだ。

人の話もまともに聞くことが出来ない己を彼が見たのなら、もしかすると目の前の軍師以上に厳しい言葉を口にするかもしれないのに。

気もそぞろだった己に気付いて、戸惑うような表情で目線を落とした劉備に、諸葛亮は少し休憩を入れましょうと告げて席を立った。

先程まで軍師が座っていた席に目を遣り、劉備は頬杖をついて深い深い息をつく。

それぞれの職務を全うするため、別々の地で何カ月も離れて過ごすことは特別な事では無かった筈だった。

今回だってほんの三週間程度、兵の訓練を兼ねた自領地の確認、という目的だし、彼の他に馬超や馬岱といった将も同行しているのだ、危険度の低い任務なのは劉備でも知っている。

なのに、毎晩毎朝、心の中で指折り数えて忠臣の任務日数を数えている自分を止めることが出来ない。

朝は離れている彼の今日一日の無事を、夜は彼の健やかな休息を、独り願う自分が居てしまうのだ。

「・・・情けない」

女々しいにも程がある、と劉備が机に突っ伏して頭を抱えていると、頭上から落ち着いた声が降ってくる。

「殿以上に、私も情けなく思っております」

卓上に茶碗が置かれる音が聞こえた。

「それほどまでに、殿がお寂しい思いをされていた事に気付かぬとは、不覚でした」

さらっと図星をさされた劉備は驚いた勢いで顔を上げる。

「い、いや、そこまでは・・・!」

自分の茶碗を片手に椅子へ腰掛けながら、諸葛亮が眉を下げて首を傾げた。

「いいえ、私が言い過ぎだとは思っておりませんよ?趙雲殿が出立なされてから貴方様は日に日にお元気が無くなるのですから・・・」

反論しようにも、全てが本当である劉備は顔を赤くして口をぱくぱくさせるばかりである。

そんな主に構わず諸葛亮は涼しい表情で細く長い指をひとつ、ふたつと折り曲げ何かを数える素振りを見せた。

「それでも、もう出立から15日経ちました。殿、日程の半分は過ぎましたよ。もう少しだけ頑張りましょう」

こちらに顔を向けてにっこり笑んでみせた諸葛亮のそつのない所作を目にした劉備の眉根に、軽く皺が寄る。

相手の表情に小さな苛立ちを見て取った軍師は内心でしまった、と呟いた。

つまらない一言こそ、相手の気持ちを逆撫でてしまう事がある。

今の諸葛亮の言葉がそうだったらしく、嗚呼、と返した劉備の声音がいつもより低い。

「・・・そうだな。頑張らねばならぬ。だが、子ども扱いされるのは流石に面白くない」

低音でそう語る劉備は、珍しく機嫌の悪そうな様子を表に出している。

いつもはこれくらいの事で機嫌を悪くすることなど無いのだが、今日は相手の妙に綺麗な所作が劉備には意地悪気に見えてしまう。

軍師殿から全部見透かされて、軽くあしらわれてお仕舞にされるような、そんな簡単な気持ちでは無いというのに。

そんな劉備の心情をそれとなく察した諸葛亮はすっと立ち上がると、彼に向かって深く頭を垂れた。

「これは・・・申し訳ありません。劉備殿を茶化した訳では無かったのですが、そのように聞こえましたら、どうぞお赦し下さい」

謝罪の後で暫くして、ふう、と主から苦しさを逃がすような溜息が聞こえて来た。

「孔明はそのようなつまらぬ話をする男ではないのは知っている。だが・・・今日はすまぬ、私がいけないようだ。・・・悪いが、暫し独りにしてもらえないか?」

僅かに気落ちした様な声でそう告げられた諸葛亮が頭を上げると、相手は席を立ってこちらに背を向けている。

呼びかけようと口を開きかけた諸葛亮は、少し何かを考えるような素振りをみせた。

このままだと、大切な軍師にまで甘えから八つ当たりしてしまいそうに心が狭まっている劉備は、諸葛亮が己の心中を察して退室してくれることを願っている。

独りでいれば誰かに八つ当たりする事は出来ないのだ、寂しさとか苦しさとかもどかしさは、独りならば己の胸の底に押し詰めて我慢することが出来る、だから劉備は背を向けた。

「劉備殿」

退室の言葉を待っていた劉備の耳に、不意に酷く優しい呼び掛けが聞こえる。

いつもの少し硬質な定型文的な言葉と違う柔らかい響きに、劉備が不思議に思って振り返ろうとした時。

片手を軽く引かれ、その勢いで諸葛亮の目の前に彼は向き合うように立っていた。

引かれた手を握られたまま、自分より少し背の高い軍師の涼しい目元を劉備は見上げる。

「なん、だ・・・?」

僅かに戸惑った劉備へ表情の変化が少ない諸葛亮が、ふっと笑んだ。

それは優しさを含みながら、でも少し寂しげな、彼が時々己に見せる表情である。

「殿。私ではいけませんか?」

「・・・え?」

「私では、貴方の寂しさを埋める事は出来ませんか?」

ゆっくり問いかける諸葛亮がじっと覗き込む劉備の瞳の中に、ちらりと迷う色が見えた。

「あ・・・いや、そうではない、孔明に不足を感じている訳では無いのだ。懸命にやってくれるそなたに、きちんと応えられていない己の不甲斐なさが嫌になっているだけで・・・先程の言葉は少しな、そなたにばかり甘えていないで独りで反省しようと思っただけで」

困ったようにそう言って微笑んだ劉備に、孔明は何かを言いたげに僅かに口を開いたが、やがて静かに頷いて握っていた手をそっと放す。

「・・・左様でしたか。気持ちが落ち着かぬ時は誰にでもございます。先程の件はあまりお気になさらず。まだ時間のあるお話ですから、後日また日を改めて致しましょう」

劉備はその言葉に素直に頷いて、今度は彼の方から軍師の手を優しく取った。

「ありがとう。そなたの気遣いにまた、私は助けられた」

伏し目がちに諸葛亮は首を振り、否と答える。

「そのような事はございません。殿のお心を察することも出来ず、ご不快な思いをさせてしまいました」

「あれは私の弱さをそなたへ押し付けてしまっただけ、孔明こそ気に病まないでくれ」

添えられた相手の手を見つめながら、諸葛亮はまた、迷った。

だがやはり彼は言葉を紡ぎ損ねて、劉備へ頭を下げるしか出来ない。

添えてくれた手をそっと押し戻しながら、軍師は退室の挨拶を口にする。

「ありがとうございます。では一度おいとまを致しましょう。御用がございましたらお呼びください」

うん、と劉備が穏やかに返事をして頭を下げている諸葛亮の肩を撫でた。

「落ち着いたら、また話をしよう。確かに私はもう少し頑張らないとな?」

子龍にも叱られる、と小さく笑う主の声を、諸葛亮は静かに聞いていた。

 

馬良と龐統が昼下がりの休み時間に顔を合わせて茶を楽しんでいると、諸葛亮が早足でやってきてそのまま通り過ぎようとする。

「おや孔明、そんなに急かないでどうだい?休み時間ってやつは茶でも飲みながら休むものだよ?」

龐統がわざとのんびりした口調で相手を引き留めようとしたが、諸葛亮はすでに背中を向けて去りかけながら否と返した。

「折角ですが士元。今日は溜まった仕事を減らさないといけませんから」

「仕事って言っても、ほんの小一時間で大事になるもんじゃあないだろうに」

「すみません、時間がある時にまた」

冷静な声を残して、諸葛亮は行ってしまう。

二人のやり取りを眺めていた馬良が、白眉を物憂げに寄せた。

「義兄上は劉備殿とご相談があった筈ですが・・・どうされたのでしょうか」

大きな帽子のつばを撫でながら、龐統は肩を竦める。

「孔明は器用過ぎてぶきっちょなんだよねぇ・・・最初に素直に言えてたら、いまあんな顔しなくて済むっていうのに。きっとそんな話だろうさ」

馬良がその言葉を受けて、嗚呼と俯き寂しげに呟いた。

「きっと、殿のお幸せを優先されているのです。・・・お優しい方ですから、義兄上は・・・」

憂いを含んだ声を出す馬良を、帽子の奥から龐統は目を細めて穏やかに見つめる。

「おや。季常も、じゃあないかい?」

問いかけた相手に顔を上げて、馬良は微笑して小首を傾げて見せた。

「わたくしは優しいのではありません。ただの意気地なしですよ、龐統様?」

「良いのさ、意気地がなくっても。それでも孔明をそんな風に見守り続けてくれるヒトが居てくれるのは、あっしの幸せだからね」

「わたくしが義兄上にして差し上げられるのは、これくらいですから」

「やっぱり優しくて損してるよ、お前さんは・・・」

「ふふ、褒め言葉として戴いておきましょう」

控えめな言葉で笑う馬良につられて龐統も笑いながら、まったくもって此処は優しすぎる人物ばかりよ、と隠れた口元が苦笑いに変わっている。

主が優しすぎるなら、部下だっておんなじかと思いながら。

 

言えなかった言葉を胸の奥へ押し込める作業は、今までどれくらいしてきたのだろうか。

劉備ならば、この言葉をしっかり受け止めてくれると分かっている。

彼とは水魚と謳われる仲である、通常の主従とは違う、気持ちの通じ方が出来ている自負はあった。

ただ、この「甘える」という言葉の意味が、己と相手とでは捉え方が違うと諸葛亮には分かってしまっているのだ。

口に出す前から答えが決まってしまっているならば、と彼は言葉を押し込めようとしたが。

「私にも・・・もっと、甘えて下さい」

囁くような声でそう告げると、彼は慕い人の温もりを探すように、己の両手を強く組んだ。

 

 

 

(終わり)

 

 

諸葛亮→劉備の切なげなお話でした。

水魚というのも好きなのですが、パターンの一つとしてこういう水魚もアリかもなどと思ってしまいます。

恋愛のような、友情のような、家族のような、様々な愛情の強さが時々によって変わる、みたいな複雑さを持つ思いと言えば良いのか・・・

趙雲に対して諸葛亮は嫉妬といった気持ちはありません、劉備が彼を想って、趙雲も劉備を大切にしてくれているから大事な人を任せられるという気持ちがある一方で、自分も劉備を慕う気持ちは捨てずに大事に抱えている、という自ら苦労するタイプで書いています。

 

 

 

・・・ええと、ちょっと私事ですが言い訳を。

実は数年前に病気をしまして、その後遺症の関係で書く文章が拙くなってしまいました。

この軽い後遺症の他は、病気自体に再発の可能性もほとんど無いというお話を頂き、日常生活は元気に過ごしております。ですが作文ブログでは以前と書き方が違うな、と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

自分自身でも上手く行かない部分からもどかしい思いをする時もありますが、改めて勉強し直す気持ちで作文を続けて行こうと思っておりますので、また遊びに来て頂けましたら嬉しいです。

ようやく病気の定期検診も落ち着いたので、ご報告までと書かせて頂きました。