こんにちは!
こちらでも、やっと桜が咲きました!!
花の季節は大概浮かれて過ごしておりまして、そんな勢いで作文です。
勢いだから誤字脱字あったらすみません・・・チェックはしているのですが・・・
先輩趙雲と、後輩姜維のイメージで書いております。
お暇潰しにして頂けたら嬉しいです。

拍手、コメント下さってありがとうございます!!!
自分ひとりの趣味で書いているつもりでしたが、誰かが見て下さっている、というのは何よりも得難いパワーを頂けるのだとしみじみ感謝しながら読ませて頂いております。
これからもお付き合い頂けたらと願っております!
 

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あしあと

 

 

 

口元に人差し指を添えて、彼が静かに見つめる者は、趙雲も気にかけていた人物だった。

隣に座っているこちらへ彼が僅かに首を回せば、忠臣も心得たものとさり気無く身を寄せる。

「子龍」

「はい、承知いたしました」

「うん」

小声でそれだけを言い交わすと、二人はまた何事も無かったかのように蜀の重臣たちが集まっている会議に意識を戻した。

会議の面々は、この二人の短いやり取りに気付いていない。

淡々と会議を進行する諸葛亮だけが、ちらりと一瞬劉備へ視線を向けただけである。

 

会議中は皆の意見を書き出し、会議が終われば、今度は話し合いの結果をまとめる仕事が待っている。

若者は重臣たちがゆったりと退室して行く中を縫うように、彼だけは忙しない様子で部屋を飛び出そうとしたとき、名を呼ばれた。

「姜維」

書類を抱えてその声に振り向いた姜維は、こちらを見つめる趙雲と目が合う。

「何でしょう、趙雲殿?」

姜維へ歩み寄りながら、趙雲が小首を傾げた。

「忙しい時にすまないな、少し話があるのだが」

そう言いながら彼は振り返り、こちらへ軽く手を上げる劉備へ丁寧に頭を垂れる。

趙雲の動きに合わせて姜維も蜀帝へ頭を下げた。

諸葛亮と並んで退室して行く劉備を二人で見送りながら、姜維は不思議そうな声を出した。

「お話ですか?私は構いませんが・・・」

「そうか。ならば少し風に当たりながら話そう」

ここはまだ会議の空気で重いから、と忠臣は軽い調子で話して歩き出したが、若者が両手いっぱいに書類を抱えている姿を呆れたように眺め、苦笑する。

「書類くらい置いて行け、誰も盗らないぞ」

「え、はあ・・・」

改めて身軽になった若者を趙雲は、春の穏やかな風が吹く屋上へ誘った。

眼下に広がる蜀の地を眺めて、姜維は目を細める。

「花があんなに・・・いつの間にか、すっかり春になっていたんですね」

穏やかな溜息をつく若者を、趙雲は腕組みをして見つめた。

「気付かなかったか?」

「そうですね・・・つい、目の前の事ばかりになってしまっていて」

そう言って苦笑する姜維の横顔は、溜まった疲れからか目元は落ち窪み、僅かな陰まで滲み出ているように見える。

「丞相からはもっと周りを見て、余裕を持つようにと言われているのですが、私にはまだまだ難しいです」

「その顔からすると、ろくに寝てもいないのだろう」

眉間に皺を寄せた趙雲が低く問い掛けると、若者が一瞬言葉に詰まり、髪の毛を掻き上げた。

「・・・目を閉じると、逆にやらなければならない事が次から次に浮かんできまして・・・」

そこまで言って、姜維は目線を落として言いよどむ。

暫くそのままの姿勢で固まっていた相手は、ふっと顔を上げて趙雲へ笑い掛けた。

「でも趙雲殿。今の私は、眠る前に覚える事が山ほどありますから!」

気遣いは無用です、と言いかけた姜維の口が動きを止める。

こちらを見つめる趙雲の表情が、険しくなっていたのだ。

「姜維。それは、丞相殿がお前に話された事か?」

趙雲は若者に問い掛ける。

忠臣の厳しい様子に、姜維は少し怯んだ様子を見せ、小声でいいえと返した。

「・・・・・時折、丞相からは叱られます。夜更かしを続けては身体に毒だと・・・」

消え入りそうな声で白状した姜維を、趙雲が当たり前だとぴしゃりと言い切る。

「あの方にそこまでお話させていたのか、お前は」

「し、しかしっ」

姜維は必死に食い下がった。

己の師である諸葛亮は、自分へそう叱るのに彼自身はもっと眠らず仕事をしているのだ、と趙雲へ訴える。

師がそれだけ働く傍らで、弟子の己が安眠を貪る事など出来ないと。

「私は、一刻も早く丞相の右腕とならなくてはいけないのです。そうしないと、あの方は遅かれ早かれ倒れてしまわれる、私がもっと仕事の出来るようになれば丞相のご負担がもっと軽くなるのです!」

寝不足から酷い顔色でそう訴える姜維は、鬼気迫る様子で趙雲に詰め寄る。

若者の気迫を、腕組みをしたまま眉ひとつ動かさずに聞いていた趙雲は、ゆっくりと口を開いた。

「そのお前のあまりに急(せ)く心が、丞相殿を消耗させる事もある」

その言葉は、ずしりと、姜維の心に落ちてくる。

「え・・・・・?」

ついと景色へ目を移した趙雲は、傍らで驚き言葉を失っている若者に言い含めるように静かな声を出した。

「諸葛亮殿が夜遅く政務をされているのは確かにお忙しい事もある。だが、師たるものが弟子より早く休むことなど、あの方に出来ようか?弟子の退出の挨拶を受けてから己が仕事を仕舞う事こそ、上の者たる役目だと丞相殿はご存じなのだ」

―――それが、上の責任というものではありませんか。

語りながら趙雲は、身を案じる己に語った諸葛亮の微笑を思い出している。

「いいか姜維、お前がやらなくてはいけない事は、連日深夜まで無理を押して仕事を続ける事では無いのではないか?諸葛亮殿の、師のお心構えをこうして知ったのならば」

姜維は目を丸くして絶句していた。

諸葛亮に追いつこうと必死になっていた自分を、彼は多くを語らず好きにさせて、更には付き合ってくれていた事実に、漸く気付く。

「・・・そんな、丞相は、そのようなお話を・・・」

師弟ともになんと不器用なのだ、と忠臣は胸中で苦笑いをした。

どちらも相手を気遣っているのに、本当の部分を見せないものだから、二人ともこんなに疲れてしまっている。

いい加減、自分たちがお節介を焼かなければいけない、とあの時に劉備が見せた気遣いは間違っていなかったと目を真っ赤にさせている若者を見た趙雲はつくづく思った。

若者の涙に気付かないふりをして、忠臣はついと眼下の景色に視線を移す。

「お前に焦る気持ちがあるのは私も、周りの皆も知っているつもりだ。だが、一人前になる前に身体を壊してしまってはどうにもなるまい?そして、お前がそのようになってしまって一番に悲しむのはどなたであろうか、姜維」

下唇を噛みしめて涙を堪えていた姜維の目から、堪え切れなくなった滴がぽろりと落ちた。

春風に髪を弄ばれながら、趙雲は柔らかく笑む。

「私もお前くらいの頃は早く一人前になろうと無理をしたことがある。しかし、そんな己を心配して下さった御方の存在で、私はいまこうしてお前に説教が出来ているのだ」

涙を見せまいと袖口で顔を拭った姜維が、趙雲の語りに小首を傾げた。

「趙雲殿に無理をされるなとおっしゃった方・・・?」

「ああ、年上の心遣いは聞いておいて損は無いぞ?とも言われた」

そういってこちらに顔を向けて笑った趙雲の笑顔は、姜維の目にとても美しく映る。

「そして姜維。お前がいつか、己の成長を焦ってもがく年下の者に出会った時、今日のように同じ事を伝えてやってほしい。それが、お前自身の成長にもなってゆく事だろうから」

いいな?と趙雲からやんわり諭された姜維は、居住まいを正して大きく頷いた。

「はい!必ず」

「ははは、相変わらず良い返事をするな、姜維は」

朗らかに笑った趙雲の耳に、遠くから誰かが呼びかける声が聞こえる。

姜維もその声に気付き、二人で呼び掛けの人物へ顔を向けると、屋上の出入り口辺りで馬岱がのんびり手を振っていた。

「やっと見つけました、趙雲殿ぉ~!訓練行くって約束してたじゃないですかぁ~」

これは、と趙雲が肩を竦めて馬岱に向かって歩き出す。

「すみません、今行きます!」

「はーい、じゃ待ってます~俺は大丈夫ですけど、若が地団駄踏みそうになっていたんで願いしますねっ」

階段を下りて行った馬岱に軽く手を上げた趙雲が、傍らの姜維へ顔を向けた。

「私は行くが、姜維は大丈夫だな?」

若者は忠臣の気遣いに拱手で応える。

「趙雲殿、ありがとうございました。だいぶん気持ちが楽になりました」

「私に感謝しなくても良い。本当に感謝するのは諸葛亮殿と・・・うん。では、またな」

言葉じりを濁した趙雲はくすぐったそうに笑むと、姜維を残して去って行った。

風に乗って鼻先に届いた花の香りを確かめながら、姜維は趙雲の微笑の意味を何となく察し、彼らの優しさを知って目尻にじんわり滲んだ涙を指先でそっとすくい取る。

泣いている場合では無い、今日いまからは、と麒麟児と呼ばれる若者はすん、と鼻をすすり、凛々しい目付きに戻ると、華やかな春風に背を押されるように己の仕事場へと足を向けた。

 

「私も偉そうになってしまいました」

気後れするような物言いでそう語る趙雲の横に腰掛けると、劉備は嬉しそうに目を細めて首を振る。

「どこの誰がそなたの語りを偉そうだと非難できようか。子龍はいつまでも謙虚で優しい語りをしてくれる。今日だって、そなただから私は頼めたのだぞ?」

陽はすっかり暮れ、真っ暗になった窓の外を二人で眺めた。

「私が姜維に語れば、彼は恐縮ばかりでなにも耳に入らなかったであろう。ありがとう子龍」

窓の外を見つめる横顔へ劉備が笑い掛けると、相手はこちらに目をやって笑み返してくれる。

「恐れ入ります。殿のお役に立てるのでしたら喜んで働きましょう」

劉備の手をそっと取り、穏やかに撫でながら趙雲は小さい笑い声を漏らした。

「姜維に語りながら、己の若い頃を思い出してもおりました。貴方から己を大事にする大切さを教えて頂いた頃を」

「そんな事も、あったかな?」

目を泳がせてとぼけた主を、趙雲は優しく見つめる。

「ええ。劉備殿がそんな無茶をした自分をお気遣い下さったおかげで、姜維に今日のような説教が出来たのだと思っております。今の私が在るのも貴方様のお蔭なのです」

間近で手を握られながら告白を受ける劉備の耳が赤く染まった。

「ほ、褒め過ぎだぞ・・・私の言葉は、年長の方から諭された昔を思い出してそなたに話しただけで」

「たとえ他人からの受け売りだったとしても、私は劉備殿からお言葉を頂けたことが生涯の幸せです」

ああもう、と劉備が真っ赤になった顔を袖で隠して趙雲の胸元に縋り付く。

明るい笑い声を上げて劉備を抱き締めながら、趙雲は目を閉じた。

「きっと今夜から、政務室の灯が消えるのが早くなるでしょうね」

うん、と趙雲の胸元で劉備が顔を埋めたまま返事をする。

「孔明も姜維の話をしたら、随分と驚いていた・・・身内には不器用な男だからな、あれは」

「これから、更に良い師弟関係が築けて行けるのでしょうか?」

「元々信頼し合っているもの同士、大丈夫だろう」

そう言って顔を上げた劉備は、趙雲と目を合わせて幸せそうに笑った。

「もし何かあっても、また私たちが己の足跡をたどって拙い昔話をすれば良い」

諸葛亮には劉備が、姜維には趙雲が。

「それが、先に長く生きて来た者の出来る事なのだろうから」

はい、と趙雲も笑顔で劉備の頬を優しく撫でた。

己の生きる力となってくれた主の足跡を、趙雲はゆっくりと辿っている。

その辿った道を、今度は自分の後をついてくる者へ伝えて行く役目を改めて自覚しながら、腕の中の愛おしい温もりを確かめるように抱き締め直した。

 

 

 

(終わり)

 

 

 

生きて来た軌跡を足跡と道に喩えて。V6の「足跡」からお題いただきました。

若い時の失敗や苦労って後でなにかしら役に立つモノで・・・趙雲としては姜維の頑張り過ぎが昔の自分と被って他人事に見えないし、劉備は孔明の心情や我慢が水魚の付き合いで筒抜け状態に分かるので心配だし、という事で手分けしてケアしないと!っていう。
でも最後は趙劉でした(笑)