お寒うございます・・・寒気でほんとあちこち凍り付いております・・・
家の中でさえあまりの寒さに移動範囲を狭めて生きておりますが、今回早めに作文出来ました。

趙劉設定です、カップリング設定ですので、苦手な方はご注意ください。
また、創作の馬良さんもおります。
さんむそ8で馬良さんは・・・とまだ言うくらい好きな方です。
お時間に余裕がございましたら、お付き合い頂ければ嬉しいです。

また、作文への拍手やご感想頂けてとても幸せです♡
いつもありがとうございます!!
元気とやる気をチャージさせて頂いておりますぅぅ!!




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冬の雨 <趙劉>

 

 

 

相手の目元から僅かに滲み出ている険色に、趙雲は内心でおやと首を傾げた。

先程まで皆が集まっての内政の話し合いでは、彼が特に困るような話題が出た訳では無い。

そもそも劉備という人物は露骨に不愉快さを周りに知らせる事は少ない御仁だが、ごくたまに面白くなさそうな様子を見せる時があるのを趙雲は知っていた。

今回は己が注視して分かる程度の小さな苦味に見えたので、趙雲は供に付きながら相手の気分転換になるような話題を急いで探す。

「殿、お身体は冷やされませんでしたか?話し合いが少し長引きましたから」

「ああ、大丈夫だ」

「皆からの今月の報告でも、大きな問題が無く何よりでしたね」

「そうだな」

劉備からの返答はいつも通りの筈なのだが、言葉に気持ちが入っていない様子に趙雲は気付いている。

自分が予想していたよりも、相手の気持ちのささくれは大きいのではないかと案じた忠臣は次の言葉に迷った。

そうしてお互いに無言のまま、廊下を歩く。

歩きながら劉備が、ふと窓の外へ目を遣って、大きめな溜息をついた。

趙雲もつられるように窓の外を見ると、冷たい雨が降っている。

ここ数日、雪にもならないままの冷たい雨が降り続いている事を彼は思い出した。

「・・・雨が、ご心配なのでしょうか?」

探るような趙雲からの問いに、劉備は外を見遣ったまま小さく唸る。

「心配、ということでは無いのだが、なんとなく、な」

元気の無い声で言葉を濁した相手を心配しない趙雲ではない。

「いかがされましたか、殿」

いつもの気遣う声に気付いた劉備が、小さく手を振って苦笑いを零した。

「ああいや、そのように子龍が心配する話ではない。私自身のつまらない気持ちだから、放っておいてくれたら良いのだ」

己に構わなくていい、と劉備は流そうとするが、趙雲は口元を引き結んで否と返す。

「そう仰られても、貴方様のご心配を、私としては見過ごす事など出来ません」

いつも通りの真っ直ぐな忠臣をちらりと眺めて、足を止めた劉備は困ったように肩を竦めた。

「本当につまらない事なのだ、自分で言うのも見っとも無いくらいの。だから、敢えて聞かないで貰いたいのだが・・・」

理由を聞きたがるこちらへ重ねてやんわりと断りを入れた劉備の言葉に、無遠慮な己に気付いた趙雲がはっと居住まいを正す。

「これは・・・ご無礼を申しました。申し訳ありませぬ」

拱手の礼をしようとする趙雲を慌てて押し止めた劉備が、相手を安心させようと微笑を向けた。

「いや、謝る程の事では無いから気にしないで欲しい。いつも気遣ってくれてありがとう、子龍」

「殿・・・」

「さあ、これからそなたは調練があるのだろう?私の供はここまでで大丈夫だ、ありがとう」

自分の向かう先はすぐそこだから、と劉備は穏やかに告げると、趙雲に背を向ける。

気持ちの晴れきらない主君の背を見つめて趙雲は何かを言おうとしたが、引き留める言葉が見つからず、その場に暫く佇んで劉備の姿を見送るしか出来なかった。

 

淹れて貰った温かい茶を前にしても、元気の無い溜息が漏れる。

その溜息が聞こえたのだろう、茶菓子をこちらに差し出しながら、相手が静かに声を掛けてきた。

「お元気の無いご様子ですが、なにか御座いましたか?」

ううん、と鬢の辺りに指を添えて、劉備は渋い声を出す。

「その言葉、子龍にも先程言われた」

「左様でございましょう。殿がそのようなお声を出されれば皆心配いたします。それで、趙将軍にはなんとお返事を?」

温かい茶碗を両手で包み込みながら、劉備はうなだれた。

「つまらぬ事だから放っておいてくれと言った」

まあ、と相手が呆れた様な声を上げる。

「それは趙将軍には酷なお話でございます」

「そう言われても・・・本当につまらぬ事なのだぞ。あれは生真面目な男だから、ほんの些細な事でも大きく捉えるゆえ、言いづらくてな・・・」

「確かにそうでしょうけれども・・・殿がなにも仰らない方が、趙将軍のご心配が増しましょうに。自分にお話出来ないような事なのではないか、とまでお考えになるやも」

白眉をひそめて物憂げな声を出した相手を、劉備は軽いしかめ面で見つめた。

「それは考えすぎではないか、季常」

諸葛亮の義弟である馬良は、劉備にとって気の置けない人物のひとりだ。

その彼に内政の相談をしていた筈が、話の流れが変わって来ている。

「それに、私はこういう話をしに来たのではないのだが」

仕事の話に戻そうとする劉備へ穏やかな笑みを向けながら、馬良は頷く。

「はい、分かっております。ですが、そもそも溜息をつかれた殿がきっかけなのですからね?」

「う・・・」

物腰は柔らかいが、話の内容の鋭さは時に諸葛亮以上の場合がある馬良に、劉備は唸るしか出来ない。

そんな劉備を馬良はふわふわと笑って、自身も茶碗を手にした。

「ふふふ、わたくしが敢えて聞き流しても宜しかったのですけれども、もし殿が趙将軍と喧嘩などされた溜息でしたら、わたくしどもの一大事ですから」

軽やかな口調で不穏な内容を口にされた劉備は、抗議の声を上げる。

「け、喧嘩などしないぞ!もし・・・喧嘩してもそなたらに迷惑はかけてはおらぬ」

最後にぼそりと付け加えられた劉備の言葉に、穏やかに笑っていた馬良の目がきらりと光った。

「いいえ、どうか喧嘩はご遠慮くださいませ。一度、大変顔色の悪いお二人にわたくしたちがどれだけ心配した事か。殿は泣きそうなお顔をされているし、趙将軍も酷く思い詰めたようなお顔をされているし、なにより義兄上の溜息が通常の三倍の多さでしたから、わたくしどもも気を揉んだものです」

「っ!?」

不意に告げられた過去の話に、驚いた劉備は飲んでいた茶が気管に入りそうになって咳き込んだ。

「まあ、申し訳ございませぬ。わたくしが言い過ぎました」

急いで席を立ち、けほけほと咳き込む劉備の後ろに回って背を撫でながら、馬良はゆっくりと語り掛ける。

「ですが殿。つまらぬ事こそ、人は話して貰いたいときが御座います。特に、自分が大切にしている御方からは」

「・・・っ、そういう、ものだろうか・・・」

「はい。わたくし以上に趙将軍はそうお考えの筈でしょう」

咳を落ち着かせた劉備がゆっくりと顔を上げて、雨が降り続く窓の外へ目を遣った。

「もし・・・子供の様な、理由でも?」

馬良もどんよりとした空を見て、眉を下げる。

「あの御方が、殿の仰ることに鼻で笑ったことなど御座いましたか?」

「・・・ない・・・」

「では殿がご不安になった時を、あの御方が見逃した事は?」

「・・・子龍は・・・」

―――貴方様のご心配を、私としては見過ごす事など出来ません。

劉備の脳裏に、趙雲の言葉が蘇った。

どんな些細な不安でも、心配でも、彼は素早く見付けて自分へ語り掛けてくれている事に改めて気づく。

それだけ彼は、自分を常に見ていてくれているという事にも。

趙雲はいつも通りに己の心情を細やかにいち早く察して手を差し出してくれていたのに、その心と言葉に甘えられなかった今日の己が、不甲斐ないと感じる。

劉備が、振り返って馬良を見上げた。

その視線を受けて、馬良は微笑みながら頷き、劉備の背をそっと撫でる。

「今しばらくお暇のお言葉はお待ちくださいませ、殿。あと少しだけ、お仕事のお話が残っております」

 

冷たい雨の中の調練を終えて、濡れた装束を着替えてしまおうと趙雲は自室へ早足に向かっていた。

調練中は集中しているせいか寒さを感じる事無く過ごしたが、片付けもすべて終わって独りになった途端に歯の根が合わなくなる。

冬の装束を着込んで寒さ対策はしているけれども、染み込んでくる雨の冷たさばかりはどうしても避けきれない。

早く着替えて、温かい飲み物でも口にしようと思いながら廊下を歩いていると、数時間前に劉備と別れた場所に差し掛かった。

柔和な面差しに差し込んだ影の理由を教えてくれないまま別れてしまった劉備の事を思い出して、趙雲の心も寂しさからじくりと痛む。

本当に些末な理由だったとしても、やはり趙雲は聞きたかった。

そこには、いつも美しい笑顔を絶やさない劉備に陰りが差す事は、趙雲にとっても辛いから、という深い思慕の想いが籠っている。

しかし、劉備自身から聞かないでくれと言われては、趙雲がそれ以上尋ねる事は出来なかった。

せめて彼の気鬱が早く安らぐようにと願うしかない。

前髪から残っていた雨だれが一滴おちてきた感覚で趙雲は我に返り、手にした布で髪を荒っぽく拭きながらその場を急いで離れた。

廊下を歩いていると、どこからともなく茶を淹れる良い香りが漂ってくる。

誰かが遅めの休憩でも入れているのかと思いながら自室の扉を開けた彼は、目の前の光景に布を頭から被ったままの姿で立ち尽くした。

「子龍」

誰も居ない、寒々としている筈の己の部屋はとても暖かく、そして自分を待っていてくれたらしい人が目の前に居る。

相手は椅子から立ち上がると、こちらに向かって歩み寄ってきた。

「雨の中の調練、ご苦労だった。冷えただろう?」

声を掛けられてやっと趙雲は頭の上の布を取ると、目を白黒させながら言葉を探す。

「あの、殿、これは」

趙雲の問いに答える前に、劉備が彼を見て小さく吹き出した。

「ふふ・・・子龍、頭がボサボサではないか。早く着替えてくると良い」

手早く拭き上げたらしい相手の髪の毛を笑いながら手櫛で直す劉備に、驚いてばかりの趙雲は顔を赤くし、焦った様子で部屋の扉を閉める。

「も、申し訳ありません!このような、見っとも無い姿を」

慌てて頭を下げる趙雲の手に己の手を添えて、劉備は首を振った。

「いや、私がこっそり入り込んで驚かせてしまったのが悪いのだ。さあ話の前に、取り敢えず着替えを、そのままでは風邪を引いてしまう」

趙雲を奥の部屋へと促した劉備は、彼に背を向けて椅子に座り直す。

茶碗に湯を注いで器を温めながら、独り語りのように劉備は口を開いた。

「そなたと別れた後、季常へ話をしに行ったのだが、それが早めに終わってな」

断りを入れて劉備に背を向け、濡れた服を手早く脱ぎながら、趙雲は相槌を打つ。

「馬良殿と。先刻の話し合いの続きでしょうか?」

「ああ。それとついでにあれから釘を刺された」

「釘、ですか?」

上半身の着替えを残した趙雲が問いを投げ掛けるが、劉備からの返事が無い。

どうしたのだろうと彼が振り返ると、こちらに背を向けた劉備が、雨が降りつづける窓の外を眺める姿が目に映った。

「劉備殿?」

「子龍と喧嘩はするな、と」

「え」

「それと」

劉備の指先が、温めている茶碗の縁をなぞる。

「つまらぬ事こそ、大事な者へ話すべきだとも」

茶碗へ目を落としている劉備の横顔が、気恥ずかしげな笑みを浮かべた。

そして静かに、ぽつりと語る。

「雨が、面白くなかったのだ」

「雨・・・」

劉備の言葉につられるように、趙雲は窓の外を見る。

「ああ」

先日のように、雪でも降れば良いのにと劉備は思っていたのだと言う。

「寒くて薄暗いばかりでは何とも憂鬱でな。白くもならない、景色の変わらない雨ではつまらなくて」

茶碗の湯を別の器に空けながら、彼は小さく息をついた。

「それが、先程の不機嫌の理由だ。・・・ふふ、なんとも子供っぽいだろう?笑ってくれ」

背後で趙雲が着替えをする音が聞こえなくなったので、劉備は頃合いかと急須へ湯を入れるためヤカンヘ手を伸ばそうとした時、不意に後ろから温もりに包まれる。

逞しい素肌の腕に抱き締められていると気付くまで、少しだけ時間が掛かった。

「っ子龍、着替えは」

相手の乾きかけた髪が、自分の耳の辺りに触れているくらいの距離に、劉備の声が僅かに上擦る。

「身体が冷えて・・・」

「笑いませぬ」

きゅ、と抱擁が強まった。

「劉備殿のその気鬱を、私が和らげることは、出来るでしょうか?」

嗚呼、と劉備は心の中で呟いて、目を閉じる。

馬良の優しい微笑みを思い返して、彼が話していたのはこういう事だったのかと理解する。

回された腕に手を添えて、顔を寄せている趙雲の顎の辺りへ、こつんと自分の頭をほんの軽くぶつけた。

「そなたがこうしてくれたから、もう大丈夫だ」

お返しのように、こめかみの辺りに口づけが落とされる。

「このようなご無礼で宜しいのですか?」

ちょっと首を傾げて、劉備は言葉を探した。

「無礼ではないぞ。私も、その・・・寂しかったから・・・・・雨のせいで!」

急いで言い訳をくっつけた劉備の耳が、趙雲の目の前でじんわりと赤く染まって行く。

笑い声を懸命にこらえて、趙雲は左様でしたかと返した。

「確かに、天気が悪いと人恋しくなりますね」

「・・・うん」

「私も、寂しかったです」

「・・・・・すまない」

趙雲からの素直な思いの言葉を聞いた劉備は、しょげた声を出す。

そんな彼を励ますように、趙雲はもう一度こめかみに口づけをした。

「いいえ、もう宜しいのです。ところで殿」

「うん?」

「馬良殿に、このお話をされたのですか?」

横から見つめる劉備の顔が、きょとんとした表情に変わる。

「季常に?いや、雨の話はそなたにだけだが・・・どうしたのだ??」

こちらを振り向こうとした劉備の動きを押し止めて、趙雲が苦笑いを零した。

「お許しください劉備殿。貴方様の気鬱の訳を知っているのは、私だけで居たいと思ってしまって」

この告白に、劉備もくすくすと笑いだす。

「ふふふ、それは独占欲、とか言うのではないか?」

相手からの確信を突く言葉に、趙雲は照れくさそうな声を出した。

「ええ・・・申し訳ありません」

「そのように謝られたら、私も謝らねばいけないな」

「え?」

「このような話を知っておいて貰いたいのは、そなただけ」

趙雲へ顔を向けて、劉備は楽しそうに目を細めた。

「だから、お相子で良いのではないか?」

そう言ってから、上半身が裸のままの趙雲に改めて気付いた彼は、顔を赤くして早く着替えるようにと言い足す。

口ではすみませんと謝りながら、照れる劉備の様子に愛おしさが募った趙雲は、相手に手を差し出して立ち上がる様に促した。

「服を着る前に、どうか私の我儘を」

素直に立ち上がった劉備を、正面から抱き締めた。

力強い抱擁に眩暈を覚える程の幸せを感じながら、劉備は相手の肌が冷えぬようにと背中に手を回す。

「明日は、晴れると良いな」

「ええ。ですが、雨も悪くないかもしれません」

「?そうだろうか」

「貴方様が、こうして温めて下さるのですから」

趙雲の耳元で、小さな笑い声が聞こえた。

「ああ、そうだな。雨の日は子龍が、いつも以上に甘やかしてくれると分かった」

嬉しそうなその言葉に、趙雲の胸も幸せで一杯になって相手の頬に顔を寄せる。

「それはもう。貴方様の笑顔が間近で拝見できるのでしたら、幾らでも」

軽やかな口づけが幾度も頬やこめかみに落とされて劉備が笑いながら身を捩った。

「ははは、くすぐったい、子龍、こらっ」

抱擁の力を弱める事無く、趙雲は更に劉備へ顔を寄せる。

「お慕いしております、劉備殿」

間近に囁かれた甘い言葉に、劉備も笑い声をおさめて相手の真っ直ぐな瞳を見つめた。

「子龍・・・好きだ、私も」

頬に手が添えられると、それが合図のように劉備は目を閉じる。

茶を淹れるために劉備が準備した湯はとうに冷めてしまっているが、お互いの温もりを分け合う二人はまだそれに気付いていない。

窓の外の雨には、少しずつ白いものが混じりはじめていた。

 

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

お疲れ様でした。

冬の素材でまた通常作文です。

自分が雪国に住んでいるのもあって、冬の時期の雨はあんまり好きではなくて、どうせ降るなら綺麗な雪が良いなーって思うのを、劉備と趙雲の間柄で冷たい冬の雨を楽しみに変えてみたくなりました。

BGMにはSing Like Talkingの「六月の青い空」をチョイスしています。

この歌の愛らしいテイストもちょこっと混じらせた、そんな甘い作文になっていたら良いなと。

お付き合いくださいまして、ありがとうございました!!