今晩は!
お久しぶりの更新です・・・すみません。
5/23が「キスの日」らしいので、ちょっと乗っかって書いてみようとしました。
もう24日になってしまいましたが・・・趙劉です。安定です。

久し振りなのでリハビリ感覚で書いています、中途半端になってしまっていますが少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです!

※7/20追加修正しました。

-----------



とっておきの理由づけ

 

 

 

知ってます?と突然問われ、趙雲は瞬きを繰り返して首を傾げた。

相手の面食らったような表情に気付いて、馬岱は嗚呼と頬を掻いて苦笑いを浮かべる。

「ええと、今日が何の日だか、趙雲殿は知ってますか?」

投げ掛けられた疑問の内容を理解した趙雲は、顎に手を当ててその答えを探し始めた。

「今日・・・ですか?どなたかの記念日、でしたでしょうか・・・」

大真面目に首を捻って考え込み始めた相手に、馬岱が急いで違う違う、と止めに入る。

「そんなに難しく考える事じゃあないんですよぉ!もっと簡単に、ちょっとしたお祭り的な話で」

馬岱の言葉を聞いても、趙雲の眉間の皺は深いまま、相手を見ている。

「・・・お祭り??確かに春祭りはもうすぐですが・・・」

何処までも言葉通りの意味から答えを探そうとする趙雲の真面目さに、馬岱も笑うしかない。

「えーと・・・そういうお祭りでも無くて・・・ああ、うん、そうだ。例えば!好き合っている者同士がお付き合いを始めた日を二人だけの記念日にするでしょ?そんな日の事です!」

やっと己にしっくり来る喩えを聞かされた趙雲は漸く眉間の皺を解いて、成程と頷いた。

「ごくごく身内的な記念日の事ですか。馬岱殿の仰りたい事は分かりましたが、さて・・・そのような内々の記念日となれば、私にはますます分かりませんが・・・」

戸惑うような素振りの相手に、馬岱は今度は遠回りしすぎたかと肩を竦める。

「ですよね・・・じゃあ趙雲殿に教えちゃいましょうか。きっと良い日だと思いますから」

「良い日?」

趙雲の問いに、馬岱は大きく頷いて胸を逸らした。

「ええ!今日はそう、キスの日、なんですよぉ!!」

堂々と言い切った後、二人の間に幾秒かの空白が生まれる。

てっきり慌てふためく忠臣の姿が見られるかと期待していた馬岱は、予想外の空気におやと相手を眺めれば、彼は驚くこともせずにただぽかんとこちらを見つめていた。

「・・・あれ?キスの日ですってば、趙雲殿」

念の為もう一度相手に伝えると、何故か彼は不思議そうに首を傾げる。

「きすの日、ですか?・・・馬岱殿、きす、とは何でしょう??」

趙雲の問いに、馬岱があちゃあ、と頭を抱えた。

「・・・そっか、そこからでしたか・・・」

地域的に自分には昔から馴染みの言葉だったが、相手には聞き慣れない単語だと言う事に馬岱は漸く気付いて、仕切り直しのように腰に手を当てて趙雲と向き直る。

「キス、というのはですね、口付けです。君が大好きだよーって相手に伝える、あの口付け!」

教えられた言葉に、趙雲の動きが止まった。

「くちづけ・・・です、か??」

そして馬岱の目の前でみるみる赤くなって行く。

これぞ自分の予想通りの反応、と馬岱はやっと安心して、朗らかに笑った。

「ね、良い日でしょ?」

「いえ、そのっ・・・く、口付けの日など、聞いたことがありませぬ!!」

真っ赤になりながら言葉に詰まる趙雲に、馬岱は笑顔で首を振る。

「勿論、政的に作られた記念日なんかじゃないですよ。でもほら、ヒトってなにか理由を付けて幸せを増やしたくなる時ってありません?」

相手の言葉に、趙雲の動揺がふと弱まった。

「幸せを、増やす・・・」

「ええ。キスの日だって、どこかの誰かが始めた言い訳なんですよ。大好きな人との幸せな思い出を増やしたいっていう、きっかけ作りの」

そこまで伝えて、馬岱が唇の前に人差し指を立てて声を潜める。

「さて、ぶきっちょな人にはとっておきの情報、確かに伝えましたからね?趙雲殿」

「っ!?」

慌てて趙雲が否定の声を上げる前に、馬岱はにこやかに身を翻して片手を上げている。

「よし、休憩はおしまい!俺は軍師殿のところへ行ってきますねっ」

こちらが言い返す前に走り去って行ってしまった馬岱の背中を眺めながら、趙雲は困ったような顔でその場に立ち尽くしていた。

 

いつも通りに約束をして、いつも通りの時間に相手は部屋を訪れたのだが、どこか様子が違うことに劉備は気付く。

二人掛けの椅子に並んで座って相手を見つめると、いつもは優しく微笑んで見つめ返してくれる筈の彼は、今夜に限って気恥ずかしそうに視線を僅かに外した。

「子龍?どうかしたのか??」

顔を覗き込むように膝を寄せると、趙雲の目元にうっすらと朱が上る。

「い、いえ・・・何でもありませぬ」

そう言いながらもどこか落ち着かない相手の様子に、劉備はふと昔を思い出して、小さく笑った。

「いや、やはり変だ。これは・・・そう、なにやら昔の子龍を思い出すな」

くすくすと傍で笑う劉備に、趙雲は首を傾げる。

「昔の私、ですか?」

手を口元に添えながら劉備は頷く。

「ああ。初めの頃は二人きりになると何故か恥ずかしがって目も合わせてくれぬ。こちらが理由を問うても的を得ぬ返事ばかり。何を話そうかと苦労した事を思い出したぞ」

劉備の話に、趙雲も出会ったばかりの頃、自分に向けられた相手の眩しいばかりの笑顔を思い返した。

「あの時分は・・・申し訳ありません。私にとって劉備殿は手の届かぬ憧れの御方、なにをどうお話してよいか分からなかったものですから・・・」

「・・・こちらが照れるくらいの褒め言葉は、何の淀みもなく言えるのになぁ」

「?」

熱くなってきた頬に手を当てて苦笑いするこちらの言葉の意味が分からず、きょとんとしている趙雲を劉備はやれやれ、と肩を竦める。

「いや、良いのだ。そう言えば乾杯もしていなかったな」

場を仕切り直そうと、劉備は卓の上の酒瓶を手に取った。

ひとつの盃に酒を注ぐと、横から手が伸びて己が持つ酒瓶を受け取る。

「もう一つは、私が」

趙雲が続いて盃へ酒を注ぎ、劉備へそれを差し出した。

「乾杯の後で、なにか話をしてくれないか?昼間は別々に仕事をしていたから」

盃を受け取りながら試しにそうねだってみると、自らは劉備が注いだ酒を手に、趙雲は小さく頷く。

「承知致しました」

二人だけのささやかな乾杯の後、杯を空けた趙雲は劉備へ何を話そうかと、今日の出来事を思い返したとき、悪戯気に笑う馬岱の顔が脳裏に蘇って、あ、と思わず声が出た。

そんな自分に驚き、思わず傍らで趙雲が語り出すのを待っていた劉備と目が合う。

「子龍?」

きょとんとしている相手に己の羞恥を悟られないように、趙雲は杯を卓へ戻しながら当たり障りのない言葉を慌てて探した。

「っ、申し訳ありませぬ、驚かせてしまって」

何を話してくれるのかと期待を込めて趙雲を見つめる劉備には、彼の動揺の理由が分からない。

ただ、酷く困惑しているような彼を落ち着かせたくて、劉備はゆっくりとした動作で趙雲の手を取った。

「今日は、何かあったのか?」

「いえ、その・・・」

劉備からの気遣いに急いで応えようとする趙雲を押し止めるような仕草を見せて、彼はふんわりと微笑み掛ける。

「嫌な事があったのならば無理に言わずとも良い。そうだな・・・私の方は季常と共に居たのだが、あれは時々抜けていてな・・・そうだ、子龍に話したことがあっただろうか?」

日々鍛錬を怠らない大きな趙雲の手を慈しむように撫でながら、劉備は今日あったことを穏やかな口調で語り始めた。

劉備の口から語られるいつもの人物達との穏やかな一日を聞いているうちに、趙雲の妙な緊張感は解れてゆく。

己がとぼけた言動をして、諸葛亮からいつも通りの冷静な突っ込みを入れられた下りで小さな笑い声を上げた忠臣を、劉備は優しい眼差しで見つめた。

「劉備殿」

話が一段落した頃を見計らって趙雲は相手の手を取り直すと、静かに呼びかける。

「申し訳ありません、お気を遣わせてしまって」

「ふふ、落ち着いたか?」

「はい。貴方のお声のお蔭で」

そう言って微笑んだ彼に、劉備も笑み返す。

「そなたの役に立てたのならば良かった」

とんでもない、と趙雲が首を振る。

「劉備殿のお声は、何者をも癒される優しさがございます。そんなお声を独り占めさせて頂ける私はなによりの幸せ者」

劉備の手をすくいあげる様に持ち上げると、趙雲はその甲にそっと口づけを落とした。

「次は、私の番ですね。そう・・・今日は、馬岱殿から良いお話を伺ったのです」

手の甲にじんわりと残る相手の唇の感触に胸をときめかせつつ、劉備は口調を乱さぬようになんだろう、と問う。

空いた手を胸元に添えて、こちらを見つめる劉備を愛おしげに見つめた。

「本日は、キスの日、と巷では言われているそうです」

聞き慣れない単語に、劉備は不思議そうな顔で首を傾げた。

「きす・・・?なんであろう、きす、とは」

馬岱へ己が問うた時と同じような声を出した劉備に、思わず笑みが零れる。

そして、顔の脇で下ろしている相手の黒髪を指先で優しく梳いた。

「私のような者が、お慕いする方に触れるための言い訳の日、のようです」

髪を触られ、続いて頬を撫でられる感触に甘さを見つけて、劉備の目線が恥ずかしげに趙雲の胸元に落ちる。

「あ・・・きす、とは言い訳の事なのか?」

「いいえ」

ついと顔を寄せて、趙雲は劉備の鼻先に軽い口づけを落とした。

「口づけの事を、異国ではキスと呼ぶそうです」

劉備にそう教えると、彼は頬にも口づけをする。

その軽やかな感触を擽ったそうに笑って、劉備は嗚呼と納得した声を上げた。

「なるほど、キスの日・・・確かに良い理由付けだ」

「宜しければ、この言い訳にお付き合い頂けませぬか?」

くすくすと劉備は笑って、趙雲の鼻先を人差し指でちょんとつつく。

「付き合うも何も、子龍」

からかうようにそう言って、相手の頬に唇を寄せた。

「私もこういう日は、好きなのだぞ?」

ちゅ、と頬に口づけすると、それを合図のように劉備の背中に腕が回される。

「それは初めてお聞きしました」

「わざわざそれを告げるのは、流石に私も恥ずかしい」

引き寄せられ、間近で見つめ合って、甘く笑いあった。

「このように可憐な貴方様を拝見できるのでしたら、お話した甲斐がありました」

との、と囁くような声で呼ばれ、唇をそっと塞がれる。

少しずつ熱が上がって行くような口づけにお互い蕩けそうになりながら、絡ませた手を確かめるようにぎゅっと握り合った。

 

 

 

(おしまい)