こんばんは!
更新を続けて参りました現パロの趙劉小説ですが、今回でひとまずの完結となります。
予想以上に長くなったお話ですが、お付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました!!
長めの内容となっておりますが、今回のお話も楽しんでいただけましたら幸いです。

いつも拍手やTwitter上での反応を下さいましてありがとうございます。
またお気軽にご感想やリクエスト頂けましたらとても嬉しいです。
それでは本編へどうぞ!


※※※ご注意※※※
今回は18歳以下の方の閲覧はご遠慮戴く表現が含まれております。
文中に性的な表現が含まれておりますので、なにとぞご配慮下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。

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ともしびのように <コンビニ店員の趙雲とサラリーマン劉備のお話>

※R-18※
18歳以下の方の閲覧はご遠慮下さい




14.しあわせはタイヤを履いてやって来る

 


 

 

 

連休の前日に目的の店へ行きガラスの引き戸を開けると、奥から朗らかな声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませ~!あ、趙雲殿!!お待ちしてましたよぉ」

カウンターの奥から出てきたのは馬岱。

趙雲が訪れているのは、馬超が社長を務める個人経営の車屋である。

馬岱は馬超の従弟で肩書は専務となっているが、社長業よりもピット内で車を弄っているのが好きな馬超の代わりに彼が事務関係やら接客を一手に引き受けている、不思議な二人が経営している店だ。

車の整備や販売は勿論、、レンタカーの手配もしてくれる勝手の良い店なので、規模は大きくないが顧客の数は多いらしく、店舗の隣にある二基のピットにはいつも様々な車が入っていて、今も馬超や他のスタッフが汚れもいとわず働く姿が見える。

「今日もお忙しそうですね」

勧められた椅子に腰かけながらガラス越しのピットへ目を遣ると、コーヒーメーカーへカップをセットした馬岱がにこやかに笑んで見せた。

「お蔭さまで!でも、若が忙しいって言い訳を付けてピットから戻って来てくれないから、こっちは書類の処理やら電話対応やらでしっちゃかめっちゃかなんですよぉ」

「ははは、事務関係は馬岱殿に任せておけば間違いがないと信用なさっているのでしょう、馬超殿は」

淹れたてのコーヒーを趙雲の前に置いて、馬岱は肩を竦める。

「そうですか?趙雲殿からそんな風に褒めて貰ったら、俺も頑張らなきゃですねぇ」

書類を持ってくる、と告げて席を外した馬岱へ頷いた時、ところどころ油汚れのシミがついたツナギ服の馬超がピットから戻ってきて、椅子に座っている趙雲を見つけた。

「おお趙雲殿!久しぶりだな!!」

元気の良い声と笑顔で歓迎の意を表してくれる彼に、趙雲も笑顔で挨拶をする。

「ご無沙汰しておりました。変わらずお忙しくしていらっしゃるようですね」

「有難い事にな。少しずつタイヤ交換の依頼も増えてきたから、これから暫くはもっと忙しくなりそうだ」

「あ!若、お客さんから預かっている冬タイヤ、交換作業で大騒ぎになる前に早めに確認しておいてね?俺からも他のスタッフに伝えておくけど」

手袋を外しながら馬超が趙雲と話していると、書類を手にして戻ってきた馬岱が話に加わってきた。

「ああ分かった。岱、黄忠殿のオイルとフィルター交換が終わったから、後で連絡しておいてくれるか」

「はーい了解!直ぐ電話しておくよ。無理言って急がせちゃってゴメンね、黄忠殿せっかちだから順番繰り上げて貰えて助かったよ。あと、趙雲殿の使う車、正面に出しておいて貰っても良いかな?」

「任せろ。綺麗に磨いておいたやつだな?」

テンポよく進む二人の会話の中に自分が含まれていると気付いた趙雲が、馬超の言葉に首を傾げる。

「・・・磨く・・・?」

馬岱から鍵を受け取った馬超が、そうだと胸を張って頷いた。

「ああ!ウチの店とっておきの車を用意したから、存分に走らせてやってくれ!!」

そういって店を出て行った馬超に代わって、馬岱がレンタカーの書類を机に広げる。

「いつもの仕事用じゃなくて、ドライブで使うって趙雲殿が電話で教えてくれたから、若と相談していつもと違う車を準備したんですよ。金額はいつも通りだから、その辺は心配しなくて大丈夫!」

書類には車種が明記されているが、メーカー名以外は英数字の羅列で趙雲にはどの車を貸してもらえるのか分からない。

しかし長い付き合いの二人が選んだ車だから大丈夫だろう、と慣れた様子で書類にサインをしてゆく。

借りる日数と金額の確認をして手続きを終えると、店の正面に車が到着したことを知らせるエンジン音が聞こえてきた。

「さすが若、タイミングバッチリ」

ガラス戸の向こうへ目を遣った馬岱がニッコリと笑う。

書類の控えを半分に折りたたみながら趙雲が相手の目線に従って後ろを振り返ると、目の前の車に驚いて声を上げた。

「馬岱殿、これは・・・宜しいのですか!?」

「勿論!いつも趙雲殿は車をキレイに使って返してくれるし、なんたって今回はデートでしょ?」

伝えていない筈の目的を言い当てられて、趙雲の顔が一瞬で赤くなる。

「で・・・いえ、そう、いや」

慌てふためく趙雲を見て馬岱は朗らかな笑い声を上げながら、身を乗り出した。

「茶化すつもりじゃあなくってですね。いつも頑張っている趙雲殿に、素敵な人と楽しい時間を楽しんでもらいたいっていう、俺たちなりのお祝いなんです。きっと趙雲殿が乗ったらカッコいいだろうねって以前から若と話していた車ですから、使って下さい!」

ニコニコしながらそう語る馬岱と、店の外で車体の艶を確認している馬超をそれぞれ見た趙雲は、気恥ずかしそうな表情で頭を下げる。

「ありがとうございます・・・では、遠慮なくお借りします」

「そうしてください!車の仕様は若が教えてくれるので、楽しんできてくださいね。連休中は晴れるように、神様にお願いしときますから」

馬岱に笑顔で見送られ店を出た趙雲は、車のそばで自分を待つ馬超へ歩み寄った。

 

約束の時間より少し早く自分のマンションの前に、劉備は立っている。

昨夜は帰りの時間が合わなかったので趙雲のアパートへ行くことが出来なかったが、今日と明日は泊まり掛けのドライブに行く約束になっているから、昨晩は電話だけでも寂しくはなかった。

その際、趙雲から防寒対策とサングラスは忘れないように、と電話口で伝えられて、劉備は理由が分からないまま厚手のグレンチェックのウールコートに皮手袋、マフラーも手にしている。

予定ではそんなに寒い地域へ行く筈ではなかったので、趙雲が自分に内緒にしている場所へでも連れてゆくのだろうか、と劉備が考えていると、マンションの正面に一台の車が入って来たのが目に映った。

珍しい車種だと他人事に思って見ていると、その車がゆっくりと自分の前に止まる。

そして降りてきたのは趙雲だ。

予想もしていなかった相手の登場に、劉備は車と相手を交互に眺めて目を丸くしている。

「え・・・?子龍??」

「おはようございます、劉備殿」

こちらも厚手のハーフコートに手袋をしている趙雲が、劉備に歩み寄りながら照れ臭そうに笑った。

「何やら凄い車を貸してもらってしまいました」

迎えに来てくれた相手に寄り添って、二人で車に近寄る。

目の前に止まっているのは、オープンカーになる幌付きの二人乗りの年代物の車だ。

メタリックが入った深い青色の車体は綺麗に磨き上げられて、新車のような輝きを保っている。

「カブリオレではないか。またレトロな車を・・・しかし綺麗にしてある車だな」

「今の車屋の社長のお父様が乗っていらした車のうちの一台だそうです。その方が早くに亡くなられてしまったので、この車を形見代わりに、今でも大事にメンテナンスしているのだと仰っていました」

趙雲の話に、車を観察していた劉備は再度驚いて顔を上げる。

「そんな大切な車を貸してくれたのか!それも子龍の人徳かな」

いいえ、と趙雲は劉備から預かった荷物を座席の後ろに置きながら笑った。

「そのように大仰なものではありません。劉備殿と初めてのドライブと知った彼等が、車自体も楽しめるようにと気を利かせて選んでくれたのです・・・さあどうぞ。少し狭いですが」

助手席のドアを開けて貰って乗り込んだ劉備は、物珍し気に車内を眺めている。

「カブリオレに乗るのは初めてだ・・・だから防寒対策、と子龍は言っていたのか」

「はい。私もこういった車に乗るのは初めてなので、念には念を入れておいた方が良いかと思いまして」

運転席に座った趙雲がバックミラーの位置を調整し、サイドミラーの見え方を確認すると、劉備へ笑い掛けた。

「街中で幌を開けると目立ちますから、海に近づいたら開きましょう。出発しますよ?」

シートベルトを締めて、劉備はうんと頷く。

「ああ、運転は子龍に任せる。宜しく頼む」

「畏まりました。任せて頂いたからには、エンストしないように気を付けなくてはいけませんね」

二人で顔を見合わせて笑い声を上げると、趙雲はギアをファーストへ入れた。

 

秋の終わりと冬の始まりが混ざり合ういまの季節の海風は、すでに冷たい。

だがそんな肌に感じる寒さ以上に、劉備は流れてゆく海沿いの景色と隣の運転者に心を奪われていた。

海が見えるのは自分の右側。

そこには運転をしている趙雲が居る。

幌を開けているので趙雲の長い髪は風に弄ばれて後ろへ流され、その毛先の動きを見ているだけでも飽きないのに、サングラスを掛けた横顔に、時折シフトレバーに左手を添える仕草は劉備が初めて目にする姿ばかりで、つい見惚れてしまう。

「劉備殿、寒くはありませんか?」

こちらの視線に気が付いたのか、趙雲が横目でちらりと眺めて声を掛けてきた。

慌てて大丈夫、と返事をして、膝に掛けて貰ったブランケットの様子を整える。

「コートを着ているし、マフラーに手袋もしているから」

それなら良かった、と口角を上げて趙雲は右手に広がる海を進行方向の道を共に眺めた。

「折角のドライブですのに、いささか雲が多い日になってしまったのは残念ですが・・・」

「雨が降らなかっただけでも上出来ではないか?風も強くないし、雲には隙間も見えるし」

海上の空では、雲の隙間から差し込んだ光が一部の海を照らし出している場所もある。

波が殆ど見えない凪のような海面が、光を反射してきらきらと輝いていた。

「それに、あまりに天気が良いとサングラス焼けを起こしてしまいそうだから、これくらいの天気で丁度良いのかも知れないぞ?」

劉備の話に、ギアを入れ替えた趙雲が口元に指先を添えて小さく笑った。

「ああ、成程・・・ふふふ、それは確かに格好が悪くなりますね」

サングラス焼けなどしてしまったら、休み明けの出社が恥ずかしくなる、と笑い合っていると、行く先の空の色が暗くなって来たことに気付く。

趙雲は片眉を上げて肩を竦めた。

「・・・降って来るかも知れませんね。停まれる場所がありましたら幌を上げましょう」

シーサイドラインには所々海水浴場や小さな駐車場がある筈なのだが、いま趙雲達が走っている場所は断崖絶壁を切り開いたような場所で、駐停車が出来る場所まで作られていない。

景色は美しい場所だが、どんどん雲が厚くなり、暗くなってくる空に趙雲の心配は募った。

このまま降らないで駐車場へ辿り着ければ、という趙雲の思いとは裏腹に、隣で劉備が小さく声を上げる。

「雨・・・か?」

顔に当たったような気がする、と彼は言う。

気のせいであって欲しい、と願った趙雲の鼻先にも、ぱたり、と無情の一滴が当たった。

路肩に一時停車することも考えたが、道幅の狭さから他の車に迷惑を掛けるのは憚られる。

本降りになる前に駐車場へ辿り着くように走り続ける選択をした趙雲は、手をかざして雨の様子を心配している隣の劉備へ声を掛けた。

「確かもう少し走れば駐車場があった筈なので、そこまで行きます。それまで劉備殿はブランケットを被って雨避けをしていてください!」

劉備の膝の上に掛けておいたブランケットを示すと、相手が心配そうな声を出す。

「子龍はどうするのだ!?そなたが濡れてしまう」

「私は大丈夫です。劉備殿、濡れる前に早く!!」

少しづつ強くなる雨脚に追われるように劉備の頭へブランケットを掛けさせると、趙雲は先を急いだ。

五分ほど走って漸く見つけた駐車場へ滑り込むと、趙雲は急いで車から降りて幌を引っ張り出す。

車内の劉備も手伝って幌を固定させると、ようやく二人で安堵の息をついた。

「最近のオープンタイプは屋根の開閉はボタン一つで出来るらしいのですが・・・すみません、雨に当ててしまって」

「私はブランケットを被っていたから殆ど濡れずに済んだから大丈夫。それよりも子龍が濡れてしまったな」

幌を叩く雨音を聞きながら、劉備が趙雲の顔に乾いたタオルをそっと当てる。

礼を告げて濡れた顔と髪を拭く趙雲を見つめて、劉備は眉を下げた。

「取り敢えず本降りになる前に間に合って良かった・・・冷えていないか?」

雨に当たったシートやダッシュボードの水滴を簡単に拭きながら、相手は頷く。

「大丈夫です。以前に比べましたら大したことはありません」

彼の長い髪の毛を拭いてやる手を止めて、劉備は首を傾げた。

「以前?」

「信号待ちで貴方に、見つけて頂いた時の事です」

その答えに、劉備は嗚呼と微笑む。

毛先から雫を垂らして、酷く寂しそうな空気を纏い、マウンテンバイクに跨って信号待ちをしていた趙雲の後姿。

劉備が声を掛けずにはいられなかった、あの日。

「あの時は子龍が風邪を引かないかと本当に心配をしたぞ・・・どれ」

車内の水滴を拭き取っていた趙雲の頬に手を当てて、劉備は自分の方へ顔を向けさせた。

「今も、雨で少し冷えてしまったかな?」

こちらの体温を確認するように頬を撫でる劉備へ、そっと顔を近づける。

「冷えているのでしたら、温めて下さいませんか?」

趙雲の言葉に、劉備が少し困った顔になって周囲へ視線を遣ると、大丈夫です、と囁き声が聞こえた。

「周りに車は居ません。ほんの一瞬で構いませんから・・・」

行儀よく目を閉じた趙雲の顔を見つめ、劉備はもう一度周りを見渡すと、ゆっくり顔を近づける。

一瞬だけ触れた相手の唇が思っていた以上にひんやりとしていたことに気付いて、確かめるようにもう一度、劉備は唇を寄せた。

次の口づけは数秒程の軽いものだったが、それを終えても離れがたくなった劉備が顔を寄せたまま相手の頬に添えていた手を肩に添わせると、その手を趙雲が捕らえて今度は彼からキスをされる。

唇を割られ、舌が軽く触れ合う甘いキスを施されて、熱を与えた筈の劉備の方がその口づけに熱さを覚えた。

「続きは、また後で」

密やかな水音と共に唇を離した趙雲が、静かな声で劉備の耳元へ囁く。

「・・・ん・・・」

こちらに手を握られたまま真っ赤になっている劉備から身体を離すのは酷く勿体無い、と思ったが、この後の予定もある。

行きましょうか、と落ち着いた声を懸命に作って相手を促すと、僅かに目元を潤ませた彼はこくんと頷いてシートに座り直した。

ドライブを再開した二人へ振り落ちた雨は長続きすることは無く、三十分もすると止んでしまい、空が明るくなってくる。

信号待ちをしながら空を見上げて、幌を開けようかと聞いてくれる趙雲へ、劉備は首を振って見せた。

「このままで良い。まだ曇っているし、いつ降って来るか分からないし」

シフトレバーに手を掛けた状態で、趙雲はクスリと笑う。

「そうですね。また劉備殿を巻き込んで大騒ぎさせる訳にはいきませんから」

「私は構わないぞ?こういう車はそんな出来事も含めて楽しむものだと思っている」

「劉備殿がそう仰って下さっても、私が心配になるのです。それに」

声量を抑えてこちらの方へ顔を僅かに寄せた趙雲に合わせるように劉備も顔を近づけると、正面を向いたままの彼が悪戯気に囁いた。

「次に雨に降られたら、キスだけでは済まなくなりそうですので」

「っ!子龍!!」

恥ずかしさを隠そうと趙雲の肩を軽く小突こうとしたら、動きますよと言われて車が走り出す。

自然な動作でギアを上げてゆく趙雲の手元を見つめていると、相手から声を掛けられた。

「すみません。貴方を困らせる事ばかり言っていますね、私は」

「いや、そのようなことは・・・」

「お恥ずかしいことに、浮かれておりまして」

「うん?」

「劉備殿と、こんな風に出掛けることが夢でしたから」

隣の相手を見ると、耳が赤くなっている。

気持ちが定まっている時の彼は、こちらが眩暈を覚えてしまうくらいの口説き文句を平然と口にする癖に、平素ではほんの些細な触れ合いにも動揺してしまうような初々しさを残していて、劉備はそんな相手の可愛らしさに笑みを零した。

「子龍は、本当に私を幸せにしてくれる人だな」

「・・・ちゃんと、幸せに出来ているでしょうか?」

「勿論。いつも好きだと言って傍らに居てくれる。簡単なようで難しい当たり前の事を、子龍は大切にしてくれるから」

「ありがとうございます・・・」

「あと、浮かれているのは子龍だけではないからな?」

「え?」

「・・・私だって、楽しみにしていたのだ、今日を」

照れが混じった声音に気付いた趙雲が劉備の方をちらりと見ると、助手席の窓から外を見ている劉備の耳が赤い。

その愛らしい言動から、こちらへ振り向かせて抱き締めたくなるけれども、運転手の責任を背負っている趙雲は相手への甘い思いを、膝の上に置かれた彼の右手を軽く握る触れ合いから伝えるだけで精一杯だった。

劉備からも自分の手を握り返して貰い、そっと手を離した趙雲は道路の表示板を見つけて声を掛ける。

「そろそろ一休みできる場所に着きそうです。食べられそうな店がありましたら、そこでお昼も済ませましょうか」

浜焼きとか、海鮮丼とか、カニとか、と趙雲がその場で食べられるものを挙げてゆくと、劉備の目が輝いた。

「カニか・・・!ああ、でも海鮮丼も良いな・・・」

「ふふ、店は沢山並んでいるので、ゆっくり回って決めましょう」

蒼い車が港町の観光地へと入って行く頃には雨はすっかり上がり、日が差してきている。

車を降りて潮の香りを吸い込みながら伸びをした劉備へ、趙雲が微笑みかけて手を差し出した。

 

昼食の後、道すがら景色を楽しんだり休憩しながら目的地のホテルに着いたのは夕方である。

駐車場に誘導され、車を降りた劉備は、海のすぐそばの建物を見上げて小さく声を上げた。

「写真で見るのとは、また雰囲気が違うものだな」

座席の後ろから荷物を取り出すと、趙雲も劉備と並んで外観を見渡す。

「そうですね。夕方になって灯りが点されたこともあるかも知れません」

白壁の和洋折衷の落ち着いた外観のホテルは、二人で選んで決めたところだ。

温泉街の外れに最近出来たらしく、評判も良いとのことで予約が取れるか心配したが、丁度劉備達を待ってくれていたかのようにこの日だけ空きがあって訪れることが出来たのである。

チェックインをすると食事の時間や場所の説明を受けて、部屋の鍵を受け取る。

エレベータを使って部屋に到着すると、劉備が明るい声を上げて窓の方へ歩み寄った。

「子龍、海が」

劉備と自分の荷物をひとまず邪魔にならない場所に置くと、彼もそちらへ足を向ける。

窓の外には海が広がっていて、日が暮れる直前の独特の深い藍色を見せていた。

「真っ暗になる前に海が見れましたね」

「ああ、綺麗だな。目の前が全部海、というのは不思議な感じがする」

徐々に夜の色に染まって行く海を見続ける劉備の手を取って、趙雲がこちらへ、と誘導する。

「この部屋には専用の温泉もありますから、海を見ながら入れますよ」

趙雲が示したのは、窓の向こうのベランダに作られた部屋専用の温泉へのドア。

規模は大きくないが、ちゃんとシャワーがあり、洗い場も設けてある。

夕食の時間までは余裕がありそうだ、と判断した劉備は趙雲の顔を見上げて笑い掛けた。

「では、一緒に入ろうか?」

この提案に、趙雲の顔がみるみる赤くなる。

「い、いえ!私は後で入りますので・・・」

相手の言葉に、劉備は露天風呂と部屋を見渡して、軽く呆れた声を出した。

「後で、と言っても・・・ここに居れば、どのみち入っている人間が見えるではないか」

「あの、荷物の整理をしていますから」

「一泊二日の荷物など、着替えしか入っていないだろうに・・・」

固辞する趙雲を前に腕組みをして肩を竦めた劉備だったが、何かを思いついた顔になって相手のコートに手を伸ばす。

「!劉備殿っ!?」

趙雲のハーフコートのボタンを外しながら、劉備が悪戯気に口元を上げた。

「今の私は温泉に入る『だけ』、なのだが?」

う、と相手が言葉に詰まる。

「それに、独りで入るのは少し恥ずかしい」

ボタンを外す劉備の動きを制止することが出来ず、趙雲は顔を赤くしたまま相手の手元を見詰めていた。

「子龍だって長距離の運転で疲れただろう。食事の前に汗を流しておくとスッキリするから」

コートを脱がせると、洋服掛けに相手の品を掛けるついでに己のコートのボタンも外し始める。

ベッドの辺りでさっさと自分の着替えを用意していると、先程の位置で固まっていたはずの相手にいきなり後ろから抱き締められた。

「しりゅ、」

「欲しいです」

貴方が、と続けられて耳朶に口づけをされる。

「子龍、ちょっと待・・・」

劉備は体の向きを変えようと身をよじらせれば、趙雲は一瞬腕の力を緩めて彼を正面にさせ再度抱き寄せると、そのまま唇を塞いだ。

話をしたいと劉備は相手の胸を叩いて抗議の意を伝えるが、趙雲は構わず相手の口内に舌を差し入れ、絡め取り、強く吸い上げる。

初めは身体を強張らせて相手のキスに応じないようにしていた劉備だったが、次第にその甘さに惹かれるように自ら舌を合わせるようになり、胸元の手は縋り付くように彼のシャツに皺を作っていた。

「・・・ずっと」

口づけの僅かな合間に、趙雲が囁く。

「貴方からキスをされた時からずっと、欲しかったのです」

劉備の腰を抱いていた大きな手が、アウターニットの裾から入り込んで彼の素肌を愛撫するように撫で始める。

腰のラインから背中、脇腹と服を捲り上げるようにしながら趙雲の手が己の身体を確かめてゆく感触に、劉備はぞくぞくと快感を覚え始め、息を上げ始めた。

「しりゅ、風呂、に」

「すみません・・・そこまで待てません」

片手で腰を抱かれ、もう片方の手に上半身の素肌を撫でられ、耳朶を甘噛みされている劉備には、相手を押し退ける力はすでに無く、ただ息を上げて縋り付いているしか出来ない。

傍らのベッドに押し倒され、上半身のニットを脱がされた時に、劉備は漸く趙雲の顔を見た。

彼は酷く熱の籠った瞳で劉備を見詰めている。

玄徳殿、と趙雲は掠れ声で名を呼ぶと、そのまま首筋へ唇を寄せた。

「っ・・・子龍・・・んっ」

首筋から鎖骨に向けて舌先でなぞられる感触から堪えるように顔を逸らせると、胸の飾りを爪先で軽く引っ掛かれて身体が小さく跳ねる。

片方の飾りは口に含まれたり舌先で転がされ、もう片方は指先で弄ばれて、劉備はじわりじわりと与えられる快感に身をよじって泣きそうな声を出した。

「や、やめ・・・そこは・・・」

「気持ちが良いから、ですか?」

「っ・・・ああっ!」

音が出るくらいに強く飾りを吸われ、劉備は思わず趙雲の腕に爪を立てる。

指で愛撫していた方へ顔を寄せながら、趙雲は嬉しそうに口角を上げた。

「玄徳殿の胸は綺麗です。形も、色も・・・触れただけ、綺麗な様子になってゆくようです」

「恥ずかしいから、そのようなことは・・・あ・・・っ」

「こちらも、見せて下さい」

胸の愛撫を続けながら、趙雲は劉備のベルトを緩める。

ジーンズを途中まで下ろすと、下着の上から劉備自身にやんわりと触れた。

これまでに施された愛撫で、彼のものはすっかり熱を持って勃ち上がっている。

息を上げながら劉備は趙雲にしがみついて首を振った。

「そこは・・・やめ・・・」

「だめです。ここまでになってしまったら、きちんと抜かなくては苦しいですよ?」

優しい口調で劉備へ語り掛けながら、趙雲の手はゆるゆると劉備自身を布一枚隔てた状態で撫で上げている。

「あ・・・あ・・・っ、や、綺麗じゃない、から・・・っ」

自身を緩く捌く趙雲の手を押し留めようと劉備はその腕に手を置くが、力が入らない。

酷く恥ずかしがるその姿を見詰めながら、趙雲はそうなのですか?、と不思議そうな声を出した。

「では確認してみましょうか」

そう言うと、下着の中に手を入れて、劉備自身に直接触れる。

熱く張り詰めた彼自身が、趙雲に触れられてピクリと揺れた。

「汚れてなどいませんよ。先走りもまだ・・・」

「い、言わなくていいっ!」

真っ赤になった劉備が己の腕で顔を隠してしまう。

自分の言葉の直後に劉備のものがぐっと育った感触を手の平に感じた趙雲は、そのまま手を動かし始めた。

すると少しずつ鈴口から蜜が滲みだしてきて、趙雲の手を濡らしながら水音を立て始める。

「・・・あっ・・・あ、」

くちゅくちゅという音に混じって、顔を隠したままの劉備の口から熱いため息が漏れた。

「気持ちが良かったら、声を聞かせて下さい」

腕をずらして趙雲を見つめると、顔を赤くしたまま、劉備は小さく頷く。

「・・・・・ん・・・・・」

「下も、取りますね」

劉備へ静かに声を掛けると、ジーンズと下着を取り去る。

「子龍も・・・服を・・・」

自分ばかり裸では恥ずかしい、と言いたそうな相手の言葉に、趙雲は頷いてシャツとズボンを脱いだ。

改めて劉備をベッドに寝かせると、趙雲も相手に寄り添うように横になるが、なにかを思い立って起き上がる。

先程の続きを与えて貰えると期待していた劉備が不思議に思って起き上がろうとしたとき、内膝に手を差し込まれて足を広げられた。

「!やっ、子龍!?」

「手では物足りなくて。貴方のものを下さい」

「それは駄目だと・・・ああっ!」

勃ち上がっている劉備自身を、趙雲は根本から舌先で蜜を舐めとるようにすると、そのまま咥え込む。

熱い口内で施される奉仕に、劉備の腰が震えた。

「あ、あ・・・っしりゅ、それ・・・だめっ!」

相手のものに舌を添わせ、吸い上げながら鈴口を刺激してやると、泣きそうな声が上がる。

口淫を施しながら後孔へ触れてみると、ぴくんと身体が震えた。

「子龍、そこは・・・後で・・・いまは・・・っ」

相手の懇願を聞き流して、緊張で固く閉じられてる後孔へ中指をそっと押し当てる。

己の唾液を落として揉み解すように指先を動かすと、暫くしてゆるゆると力が抜けてゆくのが分かった。

痛みがないようにと相手の様子を伺いながら指を差し挿れてみれば、強張っていた外側とは裏腹に、内側は趙雲の指を迎え入れるように熱っぽく絡み付いてくる。

「玄徳殿の中・・・凄いです・・・欲しかったのですか?」

趙雲の問いに、劉備の中がきゅっと締まった。

目にうっすらと涙を浮かべ、劉備はゆっくりと頷く。

「わ、私だって・・・子龍が欲しかった・・・でも、身体を綺麗にしてから、と思って・・・あんっ!」

内側の感じる所を刺激され、劉備の身体が跳ねた。

「はなしの途中で、やめ・・・っああ!」

逃げそうになる腰を捕まえて、趙雲は劉備の弱い所を擦り上げる。

「すみません。でも、そのような愛らしいお話を聞いてしまうと、もっと声が聞きたくなってしまって」

「も、しりゅう・・・っ!そこ、ばかり・・・」

内側からの刺激に、劉備自身から蜜が溢れ始めた。

嗚呼、と趙雲は舌で蜜を舐めとる。

「気持ちよくなって、たくさん声を聞かせてください」

そう告げると、口淫を再開する。

「そんな・・・もう、でそう、なのに・・・あっ、あ・・・ああっ」

吐精を我慢しようとすると中で動く趙雲の指を自ら締め付けて更に感じてしまい、劉備は声を上げて乱れた。

前後の刺激に腰を震わせながら快感の波に囚われている劉備の姿は蠱惑的で、趙雲も下着の中の自身が窮屈になってきている。

二本に増やした指で奥をえぐるように刺激してやると、劉備の腰が浮いた。

「やっ・・・い・・・いい・・・っ」

その瞬間に鈴口をぐり、と舌で押し付けて彼自身を強く吸い上げると、質量がぐっと増した。

我慢できなくなったのか、自然と腰を揺らし始めた劉備の動きに合わせて、趙雲も口で捌く速度を上げてやる。

「も・・・出る・・・っしりゅう、・・・あ、あっ、だめ・・・でるっ!!」

悲鳴のような声を上げて深く咥え込んだ趙雲の口中へ吐精すると、劉備は掴んでいたシーツを離して脱力する。

最後の一滴まで残さないようにと趙雲が萎えた劉備自身を吸い上げると、吐精の後の刺激に相手は身体を震わせた。

後孔から指を引き抜き、息を上げている相手の頭を抱え込むようにして口づけを落とす趙雲の腰に、劉備の手がゆるりと伸びる。

下着の中で窮屈そうにしていた趙雲自身を取り出すと、その雄身を確かめるようにゆっくりと捌き始めた。

穏やかに舌を絡ませていた趙雲の息が小さく詰まる。

「気持ち良いか?」

はい、と素直に答えて、趙雲は相手の臀部へ手を添える。

「貴方に触れられると、堪えが効かなくなります」

先程途中まで解した後孔へ再び指を挿し入れると、今度は強張りもなく迎え入れられた。

キスを続けながら三本の指で後孔を広げる動きを続けていると、趙雲のものを捌いていた劉備の手に力が籠められる。

滲み出てきた先走りを指先で張り出した部分に塗りこめながら、熱に潤んだ瞳で趙雲を見詰めた。

「子龍・・・入れて欲しい」

回した片腕でこちらの腰を引き寄せようとする劉備の誘いに、趙雲は無言で頷いて指を抜くと、相手の足を広げ、ひくついている後孔に自身を当てる。

劉備の呼吸に合わせてゆっくりと挿入を始めれば、さすがに苦しかったのか、相手の息がくっと詰まった。

「玄徳殿」

「ん・・・大丈夫、だ」

劉備を優しく抱き締め、キスを落としながら挿入を再開すると、相手の内部は趙雲を求めるように絡みついてくる。

奥まで挿れると抱き締める力を強めて、趙雲が上擦った声を出した。

「中・・・凄い、です・・・」

「子龍が欲しいと、いっていただろう・・・?そなただって、熱い・・・っ」

趙雲の首にしがみつくようにして、劉備も余裕のない声を上げる。

動くことを告げて、ゆっくりと腰を回すようにしながら抜き挿しを始めると、すぐに劉備から甘い声が上がり始めた。

「あっ、あ・・・っ、しりゅ・・・いいっ」

劉備の髪の毛を結い留めていたゴムを解いて黒髪をベッドの上に散らせれば、相手はうっすらと目を開いて微笑みかける。

「すまない・・・下ろした方が、そなたの好みだったのにな」

「謝られることはありません。結んだお姿だって好きですよ・・・ただ、下ろされている状態は、私だけが見られる特別感があるので」

艶やかな黒髪に指を通しながら、趙雲は目を細めて劉備へ囁きかけると、相手も誘うように瞳を煌めかせる。

「・・・昂る?」

「それはもう、このように」

言葉に合わせて腰を深く突き込むと、劉備が甘い声を上げて顔を逸らした。

頬に手を当ててこちらに顔を向けさせながら、趙雲は腰を動かす。

「私を見て下さい、玄徳殿。綺麗な様子を、もっと見せて下さい」

目を瞑って劉備は顔を赤くして首を振る。

「あ、あっ・・・や、はずかしい・・・!ああっ!!」

「玄徳殿、目を開けて下さい」

快感を与えてくれている動きが緩やかになって、目元にキスを落とされた劉備がそっと目を開けると、熱を含んだ趙雲の瞳とぶつかった。

「私は、どんな顔をしてますか」

「な・・・に・・・?」

「厭らしい顔になっていますか」

真っ直ぐな問いに、劉備はすぐに首を振る。

「まさか!・・・私を愛してくれる、美しい顔だ」

その答えに、趙雲の表情が和らいだ。

「・・・ありがとうございます。貴方の顔の方が、何倍も美しいです」

「子龍・・・」

「私を受け入れて愛してくださる貴方は美しいだけです。恥ずかしがることなどありません」

両の頬に手を添えて、覆いかぶさるように劉備へ口づけを落とす。

「私が恋をした、その瞳を見せて下さい」

劉備は戸惑うように少し目を泳がせ、じゃあ、と趙雲の背中へ手を回した。

「離れると、恥ずかしいから・・・」

「分かりました」

趙雲も劉備を抱き抱えるように身体を固定させると、お互いに見つめ合いながら律動を再開させる。

「苦しくありませんか?」

頬を染めて息を上げる劉備は、相手の気遣いを柔らかい笑みで否と返した。

「ん・・・、心地いい・・・っ」

「綺麗です、玄徳殿」

慈しむような瞳に見つめられながら抱かれている劉備の目から、一筋、涙が零れ落ちる。

大きな手の平で涙の筋を抑え、趙雲が眉を下げた。

「どうなされました?辛いのですか??」

趙雲の心配そうな声に相手は首を振るが、両の眼からぽろぽろと涙があふれ出てシーツへ浸み込んでゆく。

「ううん、そうではない・・・そうではないのだが」

劉備はくしゃりと泣き笑いの顔になって、趙雲の前髪を梳き上げた。

「こんなにも誰かから愛してもらったのは、初めてのような気がして」

その言葉に、趙雲は驚いた顔を見せる。

相手の顔のラインをなぞるように触れながら、劉備は涙を隠そうと片手で顔を覆った。

「嬉しいのに、涙が出てきてしまうのだ・・・どうして良いのか、分からない」

「玄徳殿」

顔を覆う腕をそっと外して、趙雲が相手の濡れている目元にキスをする。

「そのままで良いのです。そんな貴方も、私は愛しています」

涙目の劉備を見詰めて、趙雲は優しく笑い掛けた。

「ずっと、ずっと、愛しています。玄徳殿だけを」

指を絡めるように手を握られて、顔を隠せない劉備の瞳から、また涙が溢れ出る。

「・・・っ、しりゅうは、口説くのが、ほんとうに・・・!」

「貴方にだけは、本気ですから」

真摯な声に、劉備の肩が跳ねた。

「後できちんと、プロポーズをさせて下さい」

左手の薬指の予約を、と趙雲が微笑むと、劉備の内側がきゅっと反応する。

その甘やかな刺激に嗚呼、と趙雲はため息をついて相手を抱き締めた。

「顔を拝見しながら、と思ったのですが・・・すみません。私の余裕が無くなりました・・・っ」

「っ!・・・あっ」

ぐっと質量を増した相手の雄身を中で感じた劉備が小さく喘ぐ。

手荒な動きと分かりながらも自制できなくなった趙雲が律動を早めると、劉備が甘い声を上げて縋り付いた己の背に爪を立てた。

「玄徳殿、すみませ」

「いい、から・・・っ、もっと、奥に・・・しりゅうっ」

蕩けた表情と声に誘われた趙雲の動きが大きくなる。

腰を打ち付ける音と、淫らな水音が部屋中に響き、劉備の嬌声も大きくなる。

「あっ、しりゅ、しりゅう・・・っ、あんっ!もっと・・・ああっ!!」

「っ・・・出します・・・っ」

ぎゅっと趙雲の雄身を劉備の内側が締め付けた。

「おく、に・・・しりゅ、」

「・・・げんとくどの・・・・・んっっ!!」

汗が滲む身体を掻き抱いて趙雲は最奥を穿つと、激しい勢いのまま劉備の中へ吐精する。

「あ・・・熱い、しりゅう・・・っああっ・・・!」

相手から注がれた精の熱さを中で感じた劉備は身体を震わせ、彼も二度目の絶頂を迎えて小さく声を上げた。

 

趙雲が劉備の身体を労わりながら二人で温泉に浸かり、着替えを終えた頃には夕食の時間は既に始まっている。

ホテル専用の粋な紺と白の子持縞の浴衣姿になった劉備は趙雲の帯を締めてやると、うんと頷いた。

「少し袖丈が短いのは仕方がないが、いい男ぶりだ」

劉備の誉め言葉に、はにかむような笑みを浮かべて帯の上部をなぞる。

「ありがとうございます。玄徳殿も素敵です。何を着せても似合いますね」

「ははは、子龍のほうが褒め上手だった。着物は、顔が大きい方が似合うのだぞ?」

照れ隠しにそんな話をしてみるが、相手は真面目な顔でまさか、と首を振った。

「貴方の顔が大きいなどあり得ません。こんなに小さいのに」

ほら、と趙雲の両手が劉備の顔を包み込む。

そのまま口づけをされて、抱き締められた。

「食事に行く前に、お聞きしても宜しいでしょうか?」

糊の効いた浴衣に熱くなった顔を寄せて、劉備は何だろうと訊ねる。

一度身体を離した趙雲は相手と一緒にベッドの端に腰掛けて、その手を取った。

「この旅行が終わったら、一緒に行って欲しい場所があります」

真っ直ぐに見つめてくる瞳を、劉備もしっかりと見つめ返す。

「二人の指輪を、作りに行きましょう」

「それは、先程の?」

「ええ」

趙雲は力強く頷いて、劉備の左手を撫でた。

「玄徳殿を愛しています。貴方を護ります。そして、貴方の傍らにずっと居させて下さい。その誓いの証として、左手の薬指に指輪を填めていただけませんか?」

手を握ってはっきりと求婚の意志を告げてくれた趙雲を、劉備はじっと見つめる。

澄んだ瞳でこちらを見つめていた相手が、ゆっくりと目を閉じた。

「子龍は、私に初めてばかりを教えてくれる」

「玄徳殿・・・?」

「私はいままで、コンビニの店員の人に差し入れなんてした事も無かったし、コンビニのマネージャーとは名刺交換もした事が無かった。顔見知りの行きつけの店員の人に店以外で声を掛けることも初めてだったし・・・何よりそんな人に、恋をした事だって初めてだったな」

今までの趙雲との思い出を振り返るように語り始めた劉備が、目を開けてこちらに笑い掛ける。

趙雲もその笑みに惹かれて、微笑んだ。

「私も、店のお客様から肉まんの差し入れを頂いて受け取ったのは、初めてでした」

「ふふふ、そう言えばそうだった・・・なあ子龍」

「はい」

「私に、もっと初めてを教えて貰えないか?」

趙雲の手を握り返して、劉備は凛と相手を見上げる。

「子龍と共に過ごす毎日を、二人で見る景色を、沢山の言葉を、私に教えて欲しい。子龍の事を愛している。そなたの右手の薬指だけでは、もう、足りないくらいに。だから・・・お揃いの指輪が・・・私も、欲しい」

その言葉に、趙雲は劉備を抱き寄せた。

「勿論です。貴方の為に、私はおります。ずっと、私の傍で笑っていてください、玄徳殿」

「うん。子龍も、共に笑っていて欲しい。そなたの笑顔が大好きだから」

腕の中で素直な言葉を伝えてくれる劉備の髪へ、愛おしげに口づけを落とす。

「ありがとうございます。これからも、貴方を大切にしますから」

体温以上の温もりに包まれた劉備の口元には、消えることの無い微笑が浮かんでいる。

「子龍、ありがとう」

身体を離して、改めて誓いのキスを交わすと、二人で幸せそうに笑い合った。

そうして食事を食べ損ねる、と時計を見て慌てて立ち上がった趙雲に手を引かれる劉備は、まだ何も填められていない自分の左手を眺める。

これから同じデザインの指輪を填めて、二人でどんな景色を見ることが出来るのだろう、とまだ見えない沢山の予定を想像すると心が躍る。

綺麗な横顔を見上げて、子龍、と呼び掛けた劉備の顔は今まで以上に美しい笑みで彩られていた。

 

 

 

(おしまい)