こんにちは!
えーと、また趙劉です(笑)もう定型文化してる・・・
そんな趙劉話なのですが、今回は劉備殿との旧知の仲、簡雍さんを入れたお話を!という大変面白そうなリクエストを頂いたので、喜んで書かせて貰いました♪
妄想が捗って実に楽しい作文作業の時間を頂きました!
ありがとうございます!!

いつも拍手、Twitterでの反応など下さいましてありがとうございます!
大変嬉しくて、いつも励みになっております♪
小説へのご感想、リクエストなどこちらでもTwitter上でのマシュマロからでも投げて頂ければお返事させて頂きますので、お気軽にお寄せ下さい!

では本編へ・・・
<ご注意>
CP明記があります通り、腐要素が大変強いお話となっております。
恋愛表現などが苦手な方はご注意ください。


--------

うれしくてさみしい日 <簡雍で趙劉>

 

 

 

春らしい陽気となった今日みたいな日は、仕事を早く終わらせて酒家へ入り浸るのが一番だ。

寝ぼけたような春の温みがゆったりと漂う夕方の空気を感じながら盃を傾けつつ日暮れ時を過ごす、これこそが今の季節にしかできない楽しみであろう。

そんな楽しみを抱いて梅の甘い香りが漂ってくる外廊下をぶらぶらと歩きつつ角を曲がると、少し先に見慣れた二人連れが目に飛び込んできた。

長い髪を後ろでひとつに纏めた若き武人と、己の旧友が肩を寄せ合い何かを語り合いながらこちらに背を向けて歩んでゆく。

瞬時に何かを思いつき、歩調を早めてその二人へ近寄ると、簡雍はよぉと気楽な声を投げた。

「相変わらず仲が良いな、お前さん方」

聞き慣れた声に振り向いた劉備が、憲和、と会話途中の笑顔を残したまま字名を呼ぶ。

隣の趙雲も簡雍の方へ身体ごと向き直ってきちりと拱手の礼を取った。

「簡雍殿、お疲れ様です」

「堅っ苦しい挨拶はいいって言ってるだろ?趙雲・・・いや、趙将軍」

わざとらしく肩書で呼んでみると、相手は困ったような笑みを浮かべて顔を上げた。

「若輩者の私が礼を取るのは当然の事です。しかし・・・その将軍呼びだけはご勘弁頂けませぬか、簡雍殿」

「ははは・・・そうだぞ、お前が変に畏まった物言いをすると逆に気味が悪い」

趙雲の肩を持つような言い方をして朗らかに笑う劉備に、簡雍はつられるように口元を緩める。

「おいおい、気味が悪いってのは昔馴染みにしても言い過ぎだろ?劉備」

自分なりに敬意を表しているのだ、と簡雍が腰に手を当てて胸を張れば、劉備の方は自身の瞳に悪戯気な光を宿してにやりと口角を上げた。

「うん?私の言葉に気分を害されたであろうか、簡将軍??」

いやに丁寧な物言いになった劉備に対し一瞬簡雍の顔が驚きの色に変わったが、直ぐにうやうやしく頭を下げて改まった声を出す。

「いえいえ、皇帝陛下の仰ることにこの簡憲和、何の不平不満がありましょうや」

芝居ぶった二人の様子に趙雲はぽかんと口を開けて眺めていたが、暫くして我慢できずに小さく吹き出してしまった。

忠臣の控えめな笑い声から次に劉備が笑い出し、頭を下げていた簡雍も堪え切れずに肩を震わせ、最後は三人の明るい笑い声に包まれる。

「申し訳ありません・・・ですがいけません、お二人はそのままが一番にございます」

「あっはっは、趙雲にこう言われちゃ、格好つけ続ける訳にはいかんか!」

前髪を掻き上げながら豪快に笑う旧友を劉備は楽しそうに眺めて、うんと頷いた。

「子龍はな、いつも通りの自然なお前が一番良いと分かっているのだ」

「い、いえ!!そのような。私ごとき未熟者には、そこまで見えておりませぬ」

劉備の言葉に顔を赤くしながら慌てて謙遜する趙雲を、簡雍は若いなと笑い飛ばしている。

「して、憲和。何か用事でもあったか?何か相談事があるのならば、丁度茶の時間でもあるし・・・」

自分たちを振り向かせた理由を今更聞いてくる劉備へ簡雍は否とあっさり首を振って見せた。

「俺の仕事は至って順調だ、相談する案件は無い。ただ、たまたま見かけたお前さん方がえらく仲睦まじそうだったんでな、わざわざからかいに来ただけさ」

にんまり笑ってそう言ってやると、目の前で二人の顔が同時に赤くなる。

「っ、憲和!お前はそうやっていつも私を・・・!!」

「な、仲睦まじい、など・・・畏れ多いお話・・・」

お互い目を合わせられずにあたふたしている様子を簡雍は可笑し気に眺めながらも、当てられたように片眉が僅かに上がった。

「まあ、そうやって俺の目の前で照れ続けているのは構わないんだが、その茶とやらで誰かと待ち合わせでもしているんじゃないのか?劉備」

簡雍の鋭い推測に答えたのは趙雲である。

嗚呼、と顔に赤みを残したまま我に返ったような声を上げた。

「そうでした。殿、諸葛亮殿がお待ちかと」

耳の赤みを引かせようと自らの耳たぶをつまみながら、劉備も急いで頷く。

「う、うむ・・・。折角だ、憲和も一緒にどうだ?」

相手の誘いに簡雍は笑みは残しつつも、肩を竦めて遠慮の意を表した。

「俺は直ぐに仕事に戻るから、また次の機会に誘ってくれ。忙しい軍師殿を待たせるのは気の毒だろ?ほら行った行った!」

手をひらひらさせてこちらを急かす簡雍の気遣いに、劉備は優しく微笑みかける。

「すまぬな、憲和。時間が出来たらまたゆっくり話そう」

「ああ、そん時は酒を片手にな」

盃を傾ける仕草をしながら笑う旧友に劉備も頷きながら片手を上げた。

「分かった。だが飲み過ぎない程度の酒しか出さんぞ?」

「構わん、俺が自分で足りない分の酒を持ち込むさ。甕ごと」

「ははは、程々にしてくれよ。私の部屋で酔い潰れたら放り出すからな」

「昔馴染みには冷たいな、この大徳!」

明るい笑い声を残し、踵を返して歩いてゆく主君に倣うように趙雲も簡雍へ挨拶をしてその場を去ろうとしたら、相手から小声で引き留められる。

「趙雲、今夜は暇か?」

思わぬ早口の問いに、趙雲は思わずはいと即答してから、ええと、と素早く頭の中で予定を確認した。

「特に問題が起きなければ定刻で終わる予定ですけれども・・・」

「そうか。なら久しぶりに飲まんか?」

昔話でも、と簡雍が付け加えると、急な酒の誘いに不思議そうな顔をしていた趙雲の目が一瞬で期待の光に輝く。

「承知いたしました。喜んで」

「・・・子龍?いかがしたのだ??」

忠臣が付いてこない様子に気付いた劉備が振り返り、こちらへ声を投げてきた。

趙雲はその声にただいま、と急いで主へ応え簡雍から離れる。

「終わりましたら伺います」

「いつもの酒家だ、宜しくな」

簡雍も歩き始めながら趙雲へそう言い含めると、相手の返事を待たず自らの職場の方向へ足を向けた。

 

簡雍の言う昔話とは、大体は趙雲が出会う前の劉備についての話である。

酒を飲むだけの付き合いはあまりしない趙雲を酒家に誘い出すには、この手の話を引っ張り出してくるのが一番だと簡雍はだいぶん早い段階から気付き、今夜もそれを餌に忠臣を引っ張り出すことに成功したのだ。

そんな久方ぶりのささやかな酒宴だったのに、昼間に期待していた宵の穏やかな温もりは漂ってくれず、冬の名残のようにひんやりとした夜気が街を包む頃、平服に着替えた趙雲が酒家に現れる。

「遅くなってしまいました、申し訳ありません」

個室で独り飲んでいて既に酒が程よく回っている様子の簡雍は、大らかに笑って盃を持った手で向かいの席を示した。

「構わんさ、きっちり最後まで今日の仕事をやり遂げてきたんだろ?お前さんの几帳面さは知ってるつもりだ」

小さく断りを入れてから簡雍の向かいに座ると、卓の横に置かれた一抱えもありそうな酒甕を見つけて趙雲は小さく笑む。

「ありがとうございます。しかし、急に酒のお誘いとは・・・なにかございましたか?」

昼間の誘いの言葉の裏に、なにか別の話があるかと聞いてくる趙雲に構わず、簡雍は柄杓を使い甕から相手の盃へ酒を注いだ。

「別に深刻な話でも無いんだがな。ま、取り敢えず乾杯するか!」

ご機嫌な様子で乾杯をすると、簡雍が盃を空ける趙雲を眺めて頬杖をつく。

「・・・なあ趙雲、劉備とはどうだ?」

盃から口を離した趙雲が、簡雍の問いに首を傾げた。

「どうだ、とは?殿とはいつも通りですが」

相変わらずの察しの悪さに簡雍は苦笑いして己の盃に酒を注ぎ足す。

「違う違う、主従の仲じゃない。俺が聞いてるのは、ちゃんと大事にしてやってるかって話だよ。好きでいてくれてるんだろ、あいつのこと」

「あ・・・」

劉備との私的な仲をいきなり訊ねられ、趙雲の頬に赤みが差した。

己と劉備が恋仲であることは、ほんの一部の者達しか知らない。

その一人が目の前の簡雍で、劉備と同郷の彼は黄巾党の討伐軍時代から付き合いが続くという旧知の仲である。

察しの良い古参謀は趙雲が劉備へ抱く思慕の念に早々と気付き、不器用な彼を助けるように相談へ耳を傾けてくれたり、時には激励するような言葉をくれることもあった。

そんな面倒見の良い簡雍や他の仲間達のそれとない見守りもあって、趙雲の長い長い年月をかけた恋心は現在、めでたく成就している。

世話になった相手から劉備との関係を問われれば、正直に話すのが道理だ。

「ご心配ありがとうございます。私自身は大切にしている、つもりです」

「おいおい、歯切れの悪い言い方だな」

「!いえ、あの御方を悲しませるような事は決して致しておりません。ただ、その・・・」

言葉を濁す趙雲に、簡雍はちょっと渋い顔をして、おのが旧友の最近のおもだった言動を頭の中で思い返してみる。

盃の縁を人差し指で軽く叩きながら視線を天井板へ向けている時は、簡雍が何事か考える時の癖だ。

とん、と盃の縁を叩く指先を止めて、参謀は嗚呼と小さく声を出す。

「お前さんのその話し方じゃ・・・あれか、報恩殿か?最近入ったばかりの」

簡雍の問いには直ぐに答えず、趙雲は強張らせた顔を隠すように、二杯目の酒をあおった。

図星か、と簡雍は呆れるように笑って酒を注いでやる。

「気にするな、と言っても無理な話か。初っ端から劉備に釘付けだったからな、あの軍師殿」

盃に映り込む酒家の明かりを見詰めながら趙雲は元気のない声で語り出した。

「・・・あの御方のお心を疑っているわけでは無いのです。しかし・・・入蜀の前後ではかなりご親密になさっていたと伝え聞いたこともありまして・・・法正殿は確かにあの時分の功労者ではあるので、世話になった側としてそれ相応の礼を尽くすことが当然の計らいと分かっているつもり、なのですが」

自身が前線で戦っていた頃に流れてきたつまらぬ噂話を、趙雲はまだ気にしているらしい。

「疑ってしまう己が恥ずかしく、情けなくなるのです。殿はお優しい方、心を砕いて法正殿へ礼を尽くされたことを私も誇るべきですのに、何故それが出来ぬのかと」

「なら、本人に聞けば早いだろ、法正と浮気したのですか!?って」

ぽんと軽い調子で返された言葉に趙雲が驚いて顔を上げれば、相手は欠伸をしながらつまらなそうに酒甕を覗き込んでいた。

「な・・・・・!?」

「それが出来なきゃ、抱いてやれ。毎日な」

「!?!」

二の句が継げず、首まで真っ赤に染めて固まった趙雲を、簡雍が笑う。

「お前さん一人で考え込んだって解決する話じゃないんだろ?なら、当人に聞くしかない。だけど聞くのが怖いんだったら、あいつがお前さん以外の輩なんて目に入らないくらいにこっちから愛して、もっと惚れさせてやるんだよ。浮気防止にはそれが一番だ」

「そっ、それは・・・極論、では」

ぎくしゃくとした物言いの相手を可笑しげに眺める簡雍。

「じゃあ聞くけどな趙雲、お前さんがあいつを抱いたのはいつだ?」

「い・・・・・っ言える訳などありませぬ!!!」

椅子を倒しそうな勢いで立ち上がった趙雲を見据えて、簡雍は眉間に皺を寄せ鼻を鳴らした。

「あのな、大徳だか仁の君だか知らんが、あいつだって一人の人間だぞ。好きな奴に抱いて貰えなければ寂しくなるのは当然だ。戦場に行っているお前さんを想いながら後方で人肌恋しい夜を我慢している時だってあるかも知れん。趙雲、そこまであいつの心中を考えたことはあるか?」

座るように促されて、趙雲は椅子に手を掛けながら困り顔を見せる。

「・・・いえ・・・私はただ、あの御方のお身体に負担を掛けさせたくなくて・・・こちらから無理は言わないように、とばかり・・・」

簡雍はその言葉に腕組みをして深いため息をついた。

「無理、ねえ・・・若いのに出来過ぎてるってのも困りモンだな」

「っですが、お慕いする気持ちは変わっておりません!」

「分かってるよ、分かってる」

握りこぶしを作って気負い込む趙雲に、穏やかな声が響く。

「劉備だって、そんな馬鹿真面目なお前さんだから好きになったんだろうさ」

「・・・え・・・?」

急な口調の変化に戸惑う趙雲に構わず卓に頬杖をつき、自らの盃を揺らす簡雍の表情は優しい。

「丁度いい機会だ、話しておくか。お前さん、ずっと自分は片想いをしているって思い込んでいただろ?あれは違うからな」

「違う、とは・・・簡雍殿?」

「ほら、これを飲んだら話してやるから」

己の盃を空け、趙雲にも酒を勧めながら簡雍は相手が聞き取りやすいようにとゆっくりした調子で話を続けた。

「いつだったか・・・ああ、お前さんが二度目に俺たちの前に現れて、晴れて劉軍の一員になった頃だな。そりゃもう散々な目に遭って、一番惨めな時・・・きっと、あの時からあいつはお前さん・・・趙雲を、好きだったんだと思う」

初めて簡雍の口から語られた話に、盃を口へ運ぼうとした趙雲の動きが止まる。

 

―――憲和、憲和。趙雲が、私を憶えていてくれたのだ。こんなに嬉しいことがあるか?

趙雲が合流した夜。

二人きりで盃を手にそう言って、泣きそうな顔で笑う旧友の様子を、簡雍は今でもはっきりと憶えている。

あの笑顔がいままで見たことが無いくらいに酷く綺麗で、彼は一瞬言葉を無くしたくらいだったから。

そして旧友が見せたその美しさの意味を、誰よりも相手との付き合いが古い簡雍は直ぐに勘付いてしまって、胸に苦さが拡がった事も忘れてはいない。

それは、自分の力では相手に湧き起こさせる事が出来なかった、一番に甘い類の感情から生み出されたものだと知ってしまった夜でもあったのだ。

 

盃の中でゆらゆらと揺れる酒を見つめ、簡雍は口角を上げる。

「劉備は鈍いとこがあるからな、自分で趙雲の事が好きだって自覚したのはそれから随分と後だったみたいだが・・・ま、要はお前さん方は最初っから両想いだったって事さ。なのにお互い色恋にはとんでもなく不器用と来た。おかげでこっちは散々お悩み相談に付き合わされたんだが」

ちらりと趙雲へ目をやると、相手は顔を赤らめたまま小さくなっている。

「も・・・もうしわけありません・・・」

気恥ずかしそうに縮こまっている趙雲の様子がいつもの凛々しさとは余りにもかけ離れていることに簡雍は少し言い過ぎたかと思い、わざと明るい声で笑い飛ばした。

「はっはっは・・・ま、あんまりにも気の毒だから話を聞いてやるって言い出したのは俺の方だから気にするな!俺が言いたかったのはな、お前さんとあいつの仲は新参の誰かさんがほんの数か月でどうにかできるモンじゃねえって事だ、それだけは忘れんなよ、趙雲」

最後の方は昔、軍などという集団も参謀という肩書も無かったころに使っていた無頼を感じさせる口調で言葉を紡ぐと、相手の目が丸くなる。

「簡雍殿・・・」

うん、と簡雍は頷き目を細めた。

「劉備は、お前さんに任せたんだ。これからも、あいつの一途な恋心を信じてやってくれ」

ずっと、その姿を近くで見続けていた自分の為にも、という続きは酒と一緒に流し込む。

口の端に残った酒を手の甲で拭うと、それを見ていた趙雲が穏やかに微笑んだ。

「・・・はい。ありがとうございます。そのお言葉、胸に刻みつけておきます」

凛と決意の籠った返答に、簡雍の方が照れ笑いを見せてしまう。

「まったく・・・返事までいい男だな、お前さんは」

簡雍の盃に酒を満たしながら趙雲は首を傾げた。

「そうでしょうか?殿にもそのようにからかわれる時があるのですが」

「あー・・・それ、からかいじゃないぞ。あいつの本音だから。あと、さらっと惚気るな!」

余裕が出来た趙雲はにこにこと微笑みながら顔色一つ変えずに盃を空けている。

「ふふふ、お許しください。こうして惚気ることが出来るのは簡雍殿のお陰ですから。お礼の代わりです」

「礼は惚気よりも酒代の方がありがたいんだがな・・・」

片眉を上げてぼやく簡雍を笑いつつ、趙雲は懐から財布を出した。

「でしたら今夜の分は私が持ちましょう。ただし、この酒甕までですが」

天の恵みのような一言に、簡雍の愚痴っぽい顔が一変する。

「よし!やはりお前さんは出来る男・・・ってもう空だぞ!?」

喜び勇んで甕の中を覗くが、あと三杯分もあるかないかの酒の量に、簡雍から不満の声が上がるけれども、趙雲はまったく動じず酒家の主人を呼んだ。

「はい、私はそろそろ失礼致しますし、飲み過ぎると明日に障りますので。簡雍殿も二日酔いで殿に叱られる前にお帰り下さいね?」

「はあ、仕方ない・・・今夜はここまでか・・・」

残りの酒を名残惜しそうに舐める簡雍に、勘定を終えた趙雲が声を掛けて席を立つ。

「今宵は本当に良い昔話を聞かせて頂きました。ありがとうございました、簡雍殿」

帰りの挨拶を告げると、相手がおうと片手を上げた。

「俺も久しぶりにお前さんと飲めて楽しかったぞ」

「ではお先に・・・簡雍殿も道中お気を付けて」

「ああ、劉備に宜しくな」

「!」

にやりと思わせぶりな笑みを浮かべた簡雍に趙雲は一瞬の動揺を見せたが、すぐに綺麗な微笑を見せて酒家を去って行く。

分かりやすい男だと独りで笑いながら簡雍が旧友の幸せを願い口にしたこの夜最後の酒は、甘くて、苦かった。

 

夜半前に密やかに訪れた人物を見て、劉備は小さく驚きの声を上げる。

「どうしたのだ?眠れぬのか??」

来室が誰かの目に留まらぬうちにと部屋に入れた途端、優しく抱き締められた。

「子龍・・・?」

「貴方様に、お逢いしたくなってしまいました」

いつもは申し訳ありません、から始まるはずの言葉が、今夜は違う。

何もかもが常と違う趙雲の様子に劉備は僅かに戸惑いつつも、素直に告げられた思慕の言葉に頬が熱くなった。

「うん・・・ありがとう。私も、そなたに逢えて嬉しい」

「殿・・・」

趙雲の胸元に顔を埋めて背中に腕を回すと、相手の抱き締める力が強まる。

そして、密着した彼から僅かな酒の香りを確かめた劉備は、あべこべの原因はこれかと口元を緩めた。

「子龍、飲み過ぎたのではないか?」

劉備の耳元で、趙雲の含み笑いが響く。

「確かに酒は飲んで参りましたが、それを言い訳に貴方様へ逢いに来てはおりませぬ」

「酒の勢いではないと?」

ええ、と相手は即答して、劉備のこめかみの辺りに口づけを落とした。

「他の何かの力を借りて愛しています、と言うほど無粋にはなりたくありませぬゆえ」

熱烈な告白に胸が詰まりそうになりながらも、劉備は笑って誤魔化そうとする。

「ふふ、やはり今宵のそなたはいつもと違うぞ」

「・・・お嫌ですか?」

少しだけ身体を離して、趙雲がそっと問うてきた。

真っ直ぐに見下ろしてくる相手の視線を受け止め、劉備は気恥ずかしそうに微笑む。

「いいや、嬉しい。昼間とは違う、私だけの子龍に出逢えたようで」

そして彼の首へ腕を回すと、子龍、と甘えた声を出した。

「どんな酒を飲んで来たのか、私にも教えて欲しい」

劉備のつま先立ちを助けようと、趙雲が身を屈めて顔を寄せる。

「酒家の安酒です。お口に合うか・・・水も飲んでおりますし・・・」

相手の気遣いなど無用だというように、劉備は目を閉じて強請った。

「試してみなければ分からないだろう?私だって昔はそういった所で良く飲んでいたものだ」

無邪気に口づけを強請る愛おしい人の頬に手を添えて、趙雲は目を細める。

「ふふ、でしたらお試しください」

そっと重ねられた唇から、甘い香りが伝えられてゆく。

口伝えの酒の香りよりも、時折囁かれる趙雲からの思慕の言葉に劉備は酔い、そのまま身を委ねる。

腕の中で目を潤ませる劉備へ趙雲は、愛しております、とはっきり告げると、自分に甘えかかる大切な存在を力強く抱き上げた。

 

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

 

 

お疲れ様でした、ありがとうございました。

簡雍さんが劉備殿とラブラブな趙雲を茶化す、という素敵なリクエストを頂きましたので妄想が捗りすぎまして、イラストではなくお話にしてみました。

このリクエストを下さった、仲良くさせて頂いている方からの影響もあって、簡雍さんめっちゃ良い男になりました()

お酒好き、豪放磊落、軽妙洒脱、というイメージワードから、口調は身内間ではかなり砕けた雰囲気にして、外見はブラストのイケメンさんを参照にしました。

そういう人が公の場では綺麗な言葉と所作に変わるとか、ギャップ惚れしていいな、と。

しかし出来過ぎる男は逆に損をするのかも知れません・・・でも劉備が幸せそうにしてくれているのが自分にとっての幸い、とか本気で言ってくれる漢、ってイメージもあります。

基本的には私のところの蜀では上層部の軍師、参謀たちは趙雲と劉備の仲は暗黙の了解になってる設定なので、趙雲がんばれ。