こんにちは!
今月も無事に更新できました。
今回は英傑伝のストーリーをベースにしておりますのでネタバレ注意案件でもあります。
趙劉設定で、雷斌と劉備がメインのお話。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです!

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これからものんびりマイペースに書いてゆきたいと思っておりますので、お時間のある時にでもお付き合い頂けましたらとても嬉しいです。




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明日の行方 <雷斌と劉備・趙劉設定>

 

 

 

夜のとばりが下りて、陣営内に焚かれたかがり火の明かりが赤々と目立つようになる頃。

食事をしながら今後の相談を軍師や将軍たちと終えた劉備は、何となく星が見たくなって陣営の外れに近い野原まで独りで歩いて来ていた。

薄い雲の隙間から見える星々を見上げ、これから向かう巴蜀の地へと思いを馳せる。

―――良いかい劉備殿、この戦からは絶対に逃げちゃあいけないよ。理想を本当にカタチにするには、どんな陰口を叩かれても自分の正義を通すっていう苦さが必要なんだからねぇ。

落鳳坡で敵の弓に射られて床に臥せる身になっているというのに、己に説教をしてくれた龐統の言葉を思い出し、劉備は唇を噛んだ。

君主になる、という意味の重みを、彼の姿と言葉から漸く思い知る。

諸葛亮によれば龐統が死ぬことは無いだろう、との話だ。

だが、暫く後方で養生しなければいけない、と続けた彼の表情は辛そうだった。

己の盟友が酷い傷を負ったのだ、冷静を装っているつもりなのだろうが自分には相手の心痛がひしと伝わってくる。

すまない、と俯いた自分へ軍師は、私に謝るよりも命を削りながら説教をしてくれた龐統に応えて下さるのが貴方様の役目です、と厳しい応援の言葉を返してくれた。

星の向こうまで見通すように遥か遠くへ目を遣りながら、劉備は昼間の軍師たちとのやり取りを思い返している。

そうして、軍師たちの顔ぶれと共に先程のささやかな触れ合いまでも思い出し、星空から己の左手に目線を移して目を細めた。

―――殿・・・どうぞ、御身を責めることだけはなさらないで下さい。

食事の後に幕外へ出た時、周りに誰も居ない瞬間にそっと、そっと伝えられた密やかな気遣い。

龐統を見舞った際に流した涙の跡を、幕の外で待っていた警護役の彼はいち早く見付けていたのだろう。

それを夜まで自分の事のように気にしてくれていたらしい、己が口にして良いものかどうかと酷く迷いながらも、言わずにはいられなかったというような囁き声は、劉備の心に拠り所のような温もりを与えてくれた。

ありがとう、と答えながら安心させるように相手の手に触れれば彼は僅かに頬を染めて、はい、と優しくこちらの手を握り返してくれた存在へ自然と想いが向かう。

彼はいま、夜の警備の確認やら明日の準備やらで忙しなく陣内を歩き回っているのだろう。

忙しいくせにこちらの心配まで細やかにしてくれる、いつまでもこんな暗い所に独りで居たら彼、趙雲に余計な心配をさせてしまうと劉備は思い至り、自分の居場所へ戻ろうとひとつ大きな伸びをした時。

「え・・・劉備、殿・・・?」

少し離れた暗闇から、驚いたような声が投げ掛けられた。

聞き覚えのある響きに劉備は仲間であることを認識し、顔を向けて首を傾げる。

「うん?そなたも星を見に来たのか、雷斌」

青草を踏みながら急いで劉備へ歩み寄って来たのは、趙雲の友人である雷斌だった。

「ど、どうして貴方がこちらにいらっしゃるのですか!?」

「だから星を・・・」

こちらの言う事など耳に入らない様子で若者は焦った様子で髪を掻き上げ、周囲を見回している。

「子龍が一緒ではないのですか?」

「ああ、ちょっと気晴らしにな」

軽い調子で答える劉備を、雷斌は頭を抱えて首を振った。

「き、気晴らし・・・!?こんな陣の外を御独りで出歩かれるなんて、危な過ぎますって!」

「なに、ここはまだ警備の範囲内だ。時間もそう遅くはないし、護身の剣ならば一応は持っているのだぞ?」

大らかにそう言って笑う劉備を、雷斌は脱力した顔で眺めている。

「そうは仰っても、困ったな・・・じゃあ今は俺が子龍の代わりに警護させて頂きますね。・・・あっちで子龍が慌ててなきゃいいけど・・・」

腰に差していた愛用の散箭弩を軽く鳴らして何時でも使えることを確認する相手に、劉備は肩を竦めて見せた。

「すまない、気を遣わせてしまったな。私はもう気が済んで戻るから、そなたはそのままで」

「いえ、でしたら陣内までお送りしますよ。そうしないと」

親友に叱られる、と続けた雷斌に、劉備は不思議そうな顔をする。

「独りで出てきたのは私の判断だ。子龍がそなたを叱る道理は無いと思うのだが・・・」

のんびりとそう返す劉備を、雷斌は眉を下げて苦笑いした。

「いえ、それが大ありなんですよ。・・・まあ俺は子龍と違って劉備殿に直にお仕えする立場ではないですけれど、お世話になっているんですから護衛は当然の話だと思って下さい」

「そうか?そういうものか・・・」

客人に護衛について貰うのは妙な心持ちだ、と首を傾げる劉備に雷斌は笑いながら歩みを促す。

「はい。なのでもし、向こうに着いて子龍から心配されたら、初めから俺が護衛に付いていたとお話されて下さいね。御独りで出られた、なんて仰ってはダメですよ?あいつの心配性が加速しますから」

雷斌の話を聞いているうち、劉備の脳裏に困り切った顔をしている趙雲の姿が浮かんで、思わず笑みが零れた。

「ああ、成程・・・ふふ、では雷斌の言う通りにしよう。やはり付き合いが長いだけあるのだな、そなたは子龍の事を良く知っている」

ありがとうございます、と答えて頭を下げた雷斌が、一瞬なにか迷うような空気を見せた事に劉備は気付いて笑みを収める。

「雷斌、そういえばどうして此処へ?」

踏み出そうとした足を止めて、雷斌は言葉を探した。

「少し・・・考え事をしていたんです。大勢の話し声の中ではちょっと落ち着かなくて」

先程の会話の口調よりも僅かに陰が含まれた声に、劉備は暗闇に近い中で相手を探るように見つめる。

「何か心配事でもあるのだろうか?話を聞くだけならば出来るが」

心配そうな劉備の問いかけに、雷斌は慌てて顔を上げ首を振った。

「あっ、いえ!劉備殿のお時間を頂くような話じゃないんです!!本当に、大したことの無い中身で」

劉備の脳裏に、趙雲の困り顔が再度蘇る。

そして、ほんの数日前、彼が独り言のように零していた言葉も思い出した。

―――友の様子が、少し気になるのです。最近、何やら思い詰めたような顔をしている時があって。

この事か、と劉備は目の前の若者を眺めながら、趙雲の心配を理解する。

彼は雷斌に歩み寄り、相手の肩にそっと手を置いた。

「雷斌。無理にそなたの中にある不安を今すぐ話してくれ、とは言わぬ。だが、もしそれが独りで抱えきれぬほどの心配事であるのならば、時に誰かとそれを共有することも大切な解決法のひとつだと心に留めおいてはくれぬか?」

劉備の語りに、雷斌は目線を落としたまま小さくええ、と返す。

「ありがとうございます・・・」

「聡明なそなたの事、時間を掛ければ独りで解決できる話なのかも知れぬが・・・その、子龍も心配していた。余計なお世話だとは分かっているが、私も仲の良いそなたたちを見てきたのでな」

趙雲の名を耳にした雷斌ははっと顔を上げ、申し訳なさそうに目を泳がせた。

「とんでもありません。劉備殿にまでこのようなご心配をお掛けしていたなんて知らず・・・すみません」

ゆるりと頭を振って劉備は構わないと告げる。

「私の事は良いのだ。ただ、友は大切にして欲しい。子龍は生涯の支えとなってくれる男だから」

穏やかに諭す劉備の言葉を聞いた雷斌の拳に、力が籠った。

泳がせていた目を相手にしっかりと定め、口を開く。

「・・・劉備殿・・・子龍の事なのですが」

雷斌と向き合う劉備が、何だろうと瞬きをした。

「あいつを、これからも貴方の傍に置いてやって下さい。もし俺に・・・何かあっても」

劉備の眉間に、不可解そうな皺が軽く作られる。

「雷斌?」

相手の探るような声に、雷斌はええと、と次の言葉を急いで探した。

思わず口から出かかった胸の中を覆っている黒い不安を、彼に気取られない上手な言い訳に作り替えなければと雷斌は無難な理由を選び出してゆく。

「すみません、急にこんな話をすれば驚きますよね。でも、俺からこうしてちゃんとお願いする機会が今まで無かったので、改めてお伝えしようと思って」

成程、と返す劉備の声には先程よりも納得している響きが聞き取れた。

だが、鬢の辺りへ小指を差し入れながら小首を傾げる様子には、まだ消化できていない懸念が残っているように見える。

「ああ・・・いや、それは構わないのだ。それよりも先程の何か、とは」

「りゅ、劉備殿はっ!」

本音の尻尾を掴まれそうになった若者が、急いで言葉を被せた。

「子龍の事を、好いて下さっていますか?」

強引な力技にも似た問いに、劉備の思考が一瞬で止まった。

目を丸くしてこちらを見つめていた劉備の顔が、みるみる赤くなってゆく。

「と、年上をからかうものでは無いぞ!」

咎めるような口調ではあるけれども、その表情は完全に答えを見せている。

劉備らしい素直な感情表現を目の当たりにした雷斌は嗚呼、と心の中で感嘆して口元を緩めた。

この人ならば大丈夫だ、と確信を強める。

自分にすらこれだけ心を温めてくれる人物なのだ、あの頑張り屋で一途な親友に対してならばもっと幸せにしてくれて、二人で沢山の笑顔を生み出してくれる人に違いない、と。

「すみません、からかっているつもりじゃなかったんです。ただ、子龍が事あるごとに俺に劉備殿の話をするものですから。あいつが貴方へ一生懸命過ぎて、逆にご迷惑をお掛けしていないかなと思って」

自然と笑みを浮かべながらこちらを驚かせた理由を語る雷斌に、劉備は頬の赤みを隠すような仕草を見せつつゆるりと首を振った。

「そ、そうだったのか・・・?いや、迷惑な事など一つも無いが」

「本当ですか?俺には気を遣わず、気になることがあれば教えてください」

やり過ぎがあれば趙雲に注意する、と言う相手に、劉備は白い歯を見せて否と返す。

「まさか。嘘など言わぬ、子龍は本当に良くできた若者だと思っているぞ・・・ふふ、なにせ今では私の方が世話になっている状態だからな」

劉備らしいまろやかな優しさを改めて感じた雷斌は、笑いながらも胸に秘めた決意を新たにしている。

「ありがとうございます。劉備殿の今のお言葉をあいつが聞いたら、それこそ舞い上がって何にも手に付かなくなるでしょうね」

師伯、と子供のように嬉しそうな顔をして劉備から褒められたと報告しに来る趙雲が目に浮かぶようだと雷斌が笑い声を上げれば、相手の瞳が興味深げにきらりと輝いた。

「おや、真面目な顔で『畏れ入ります』と頭を下げるばかりかと思っていたが・・・あれもやはり気楽な者の前では違うのかな?折角だ、今度そなたから子龍の話をゆっくり聞かせては貰えぬか??」

劉備からの期待に、雷斌の表情がほんの一瞬だけ迷う。

今度、という時間は、自分に残されているのだろうか。

劉備達が巴蜀を取るということは、黎霞が最後の力を得る、ということでもあるのだ。

それだけは、自分が阻止しなくてはならない。

親友と劉備の幸せの為に、己がどうなろうとも。

だが、今はその決意を悟られるわけにはいかなかった。

「・・・はい!子龍が居ない時にでも、是非」

嘘をついたのかも知れない自分を満面の笑顔で隠して、雷斌は劉備の期待に応える。

そうして相手に戻りましょう、と灯りに満たされた陣営の方向へ促そうとした時だった。

「雷斌」

静かに名を呼ばれる。

反射的に相手の顔へ目を遣ると、劉備が凛とした表情でこちらを見つめていた。

「そなたは私の部下という立場ではない。だが、これだけは忘れないで居てくれないか?雷斌は、私にとっても大切な仲間の一人であると」

劉備の大きく澄んだ瞳に、己の全てが見透かされているような気持になる。

「先程の約束、違えてはならぬぞ」

「・・・・・っ!」

引き留められる、と雷斌の背中を冷汗が伝ったが、劉備はそれ以上何も言わずに歩き出した。

そんな彼にどう答えてよいか分からず、無言のまま慌ててその背を追う若者に、囁くような声が聞こえてくる。

「私もな・・・己の正義を通す、という覚悟を決めに此処へ来ていたのだ」

「・・・・・劉備殿・・・」

「死んではならぬ。良いな」

声量は抑えられてはいるが、酷く重みのある言葉に、雷斌は涙をこらえようと唇を噛みしめ、劉備の背に向かって深く頷く。

近づいてくる劉備軍の明かりと人々の賑やかさを若者は忘れぬようにと目に焼き付け、音達に聞き入る。

その中から劉備殿、と一際大きく響く呼び声と、子龍、と返す声が聞こえてきて、雷斌の口元が嬉しそうに上がった。

心配そうに語り掛ける趙雲と、宥めるようにその腕に手を添える劉備の姿を遠目に眺めながら、雷斌は大丈夫ですと呟く。

悲壮感の漂っていた決意は、友人の慕い人の大きな優しさによって前向きな思いへと変わっている。

劉備からは破れぬ約束をさせられてしまったし、親友は奥手でまだまだ尻を叩いてやらなくてはいけない。

あの二人の惚気話を聞くまでは死ねなくなったぞ、と彼は可笑し気に笑って満点の星空を仰ぎ見た。

 

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

ありがとうございました、お疲れ様でした。

英傑伝の雷斌くんで何か書きたいなーとずっと思っていまして、今回はようやく彼をメインにしてみました。

私の書くお話はたいてい趙劉ベースなので、今回も劉備に恋する趙雲を応援する親友、という目線です。

ストーリーの後半では雷斌が趙雲の幸せの為に!と必死に孤軍奮闘する姿が印象的でしたので、劉備たちや趙雲から独り離れる心情を想像してみました。

独りで思い詰めると悲壮感ばかりが先に立ってしまいますが、人生経験が豊富な劉備が傍に居れば少しはその思いが前向きに変わるのかな、なんて。

劉備殿はいくつもの修羅場を潜り抜けてきている方なので、意外と覚悟を決めた人の決意は尊重して送り出してくれそうな気がします。ただ、死ぬなという一言は忘れずに贈ってくれそう・・・男前・・・(あくまでも自分設定です)