こんにちは!
いつもお付き合いくださいましてありがとうございます!!
お陰様で今回で無事に完結のお話となります。

ただ、今回は年齢制限のある恋愛表現が含まれましたので、18歳以下の方の閲覧はご遠慮いただいております。ご理解とご協力を頂けましたらと願っております。

上記の通り、ベッタベタな趙雲と劉備のお話となっておりますので、カップリング要素が強いお話が苦手な方もご注意くださいませ。
色々と注意喚起ばかりとなってしまいましたが、それでも楽しんでいただけましたら何よりも嬉しいです。それでは宜しくお願いいたします!



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Rendezvous <趙雲と劉備> ※R-18



2.

教えられた道を愛馬で駆けながら、劉備は空を見上げる。

冬のきりりと澄み渡った青空とは違う、少し焦点がぼけたような春の青空。

水で滲ませたように輪郭のはっきりしない雲と淡い青の風景は、昔から何故か心を浮き立たせる色彩だった。

今日はそんな青空の下で待ち合わせをする存在が居る、それが更に自分の喜びを倍増させているのだろうと劉備は思い至って、単純だなと独り気恥ずかしげに苦笑する。

そろそろ相手が待っている辺りだろうかと劉備は馬の速度を落として先へ目を凝らすと、道の脇で白馬と共に佇む人物を認めた。

思わず大声で名を呼びそうになるが、どこで誰が聞いているか分からない、と今回の旅の約束事を思い出した劉備は己を抑えてゆっくりと馬を進める。

こちらの存在に気付いた相手も白馬の手綱を引いて歩み寄って来てくれた。

「殿、お待ちしておりました。申し訳ありません、本来は私が城からご同行するべきだったのですが・・・」

馬上の劉備へ申し訳なさそうに語り掛けたのは、平服姿で弓を担いだ趙雲である。

そんな彼へ、劉備は穏やかに笑って首を振った。

「そなたが謝ることはない。別々に城から出るのは相談済みの話だっただろう?たまの一人駆けも楽しかったぞ」

愛馬の首筋を撫でながらそう話す劉備に、趙雲は安心したような表情を見せる。

「諸葛亮殿が道筋の憂いを取り除いて下さったお陰ですね・・・とにかく良かったです」

「うん?孔明??」

耳聡くこちらの呟きを聞き取った劉備へ、趙雲は慌てて何でもありませんと告げて愛馬に跨った。

治安が比較的良いと言われている成都周辺だが、時折物騒な輩が町の外れに現れることがある。

諸葛亮はそのことを考慮して劉備が通る道筋へ前もって己の部下を送り、主君の安全を確保していた。

その経緯を趙雲は知っているが、劉備には伝えていない。

『秘密にするのは孔明様なりの、殿へのお気遣いなのですよ』

己へそう言って微笑んだ馬良の顔を趙雲は思い出す。

部下達の気回しを劉備が知ってしまえば優しい彼の事、出掛けたい、と言い出した自身を恥じてしまうだろうと諸葛亮は察していたようだ。

だから自分もこの事は秘密にしておかなくてはならない。

話題を変えなければ、と趙雲が急いで別の話を探していると、劉備がおやと声を上げた。

「狩りをしていたのか?」

相手の目線を追って己の鞍の後ろへ目をやると、そこには先程水辺で射止めてぶら下げていた鴨。

「はい。こちらへ向かう途中に良い狩場を見つけましたので、夕飯の材料にでもと」

ほう、と目を輝かせた劉備に趙雲は行ってみますかと訊ねた。

「久しぶりに貴方様の弓を拝見したく」

背負った弓を指して笑い掛けると、劉備はちょっと困ったように小首を傾げる。

「なんでも器用にこなせるそなたに言われると気負ってしまうな・・・ならば場所を見てから考えてみよう。子龍、連れて行って貰えるだろうか?」

隣に並ぶ相手の顔を見上げれば、断る理由はどこにもない、と彼は頷いてくれる。

「承知いたしました、喜んで」

此方です、と趙雲は劉備を先導するように手綱を操った。

 

中腰の姿勢からきり、と狙いを定めて弓を引き絞る。

獲物の動きが止まった瞬間、矢を放った。

風を切って飛んで行った矢は見事当たったと思ったのに、獲物の水鳥は警戒の声を上げて飛び去って行ってしまう。

ため息をつきながら茂みから立ち上がると、嗚呼と残念そうな声が隣からも聞こえた。

「羽には掠っていたようでしたが・・・」

己の傍らで矢を持ち、補佐をしていた趙雲が肩を落としている。

「仕方あるまい。向こうの勘が鋭く、私の腕が鈍っただけだ」

劉備はそういってからりと笑うが、趙雲の方は面白くなさそうな顔のままだ。

「殿は時折諦めが早すぎます。もう一度・・・」

「いや。言い訳をするとな、やはりこの袖では弓を引きにくいのだ。そなたから袖をからげて貰ったのだが上手くゆかぬ」

たすき掛けにと趙雲から借りた紐を解き、元に戻した丈の長い袖をひらりと振って、劉備は苦笑する。

「今日の食材は子龍が調達してくれたのだろう?ならば無理に命を取らなくても良いのでは、とも思ってしまってな」

「劉備殿・・・」

趙雲へ礼を伝えながら弓を返す劉備がそんな声を出さないでくれと肩を竦めた。

「勿論、逃げられっぱなしは私も悔しい。明日の食材は私が調達したいから、屋敷に着いたら弓の手ほどきをしてはくれぬか?それに」

劉備はそこまでいうと、悪戯気に目を光らせる。

「黄忠殿に弓を怠けているとバレたら大目玉を食らうのだ。近々黄忠殿と射比べをする話になってもいてな・・・どうか私を助けてくれ」

三国一とも謳われる弓の名手から説教を受ける相手の弱り切った様子を思い浮かべた趙雲が小さく吹き出した。

「ふふふ・・・それは皆にとっても一大事。私も拙い弓なのです、その鍛錬にお付き合いさせてください。では、その屋敷へ参りましょうか」

す、と差し出された手を、劉備は嬉しそうな顔で迷いなく己の手を重ねる。

いつもの昼間はこんな風に手を繋ぐことさえ憚られるのに今日は誰の目も届かない、それだけで幸せを感じる。

相手も同じ思いなのだろう、きゅっとこちらの手を握りながら微笑んでいた。

「足元にお気を付け下さい。木の根が出ておりますから」

寄り道を終えて本来の目的地に着いたのは昼近くである。

馬を降りて己の隠れ家を初めて目にした劉備は、ほうと感嘆の声を上げた。

「これは、隠れ家と言って良いのか・・・?」

劉備の愛馬の手綱を預かりながら、趙雲は笑っている。

「驚かれましたか?」

「もっと・・・小ぢんまりとした規模だとばかり・・・」

目の前に建っている屋敷は立派な高い塀に囲まれ大きな門に広い庭まで付いている、まさに「どこかの金持ち」の建物の様相であった。

門の前に突っ立って外観を眺めているばかりの劉備に、趙雲が声を掛ける。

「どうぞ、中もご確認下さい。貴方様のお屋敷なのですから」

「あ、ああ」

劉備を中に入れると、趙雲は素早く辺りを見渡して門を閉じ、来客を拒むように閂を掛けた。

趙雲が厩舎へ馬を連れて行っている間に劉備は屋敷の中を見て回り、中の様子に更に驚かされる。

幾つかある部屋全てが己の居城の政務室や私室と良く似せた雰囲気に仕上げられていた。

部下が自分をなかなかこちらに連れてこなかった理由がこれだったのかと漸く知る。

連れて来たくなかったのではない、連れてくる事が出来なかったのだと。

「これだけ似せようと造れば、時間が掛かるのは当然か」

庭に通じる扉に手を掛けて外を眺める劉備に、用事を終えた趙雲が傍らに立ち、はいと答えた。

「一時の避難所とは言いましても、殿が安心してお過ごしできる場所でなければなりませんから」

「気持ちは有難いが・・・孔明達は金のやり繰りに苦労したのであろうな・・・」

「殿がそのようなお顔をなさることはありませぬ。諸葛亮殿も皆も、ちゃんと出来る範囲でやっております」

心配はいらないというような声に相手の方を見れば、整った顔立ちの彼が優しい眼差しで己を見つめている。

「軍師殿のお考えと手腕は、殿が一番にご存知ではないかと?」

趙雲の言葉に劉備は少し考える素振りを見せてから、にっこりと笑った。

「・・・ああ、そうだった。それと、子龍が私に語る話には嘘をつかないことも良く知っている」

その笑顔に趙雲の頬がふわりと染まる。

「わ、私の事は・・・」

「ありがとう、子龍」

連れてきてくれた事に感謝を伝えながら趙雲の腕にそっと手を添えると、相手は顔を赤らめながら畏れ入ります、と頭を下げた。

己の手を先程のように握ってくれないかと劉備は期待をしてみたが、趙雲はその想いに気付かず、別の何かに気持ちが向いたのか、はっと顔を上げる。

「殿、昼を」

思いがけない言葉に、劉備はきょとんとした。

「・・・へ?」

顔を赤くしたままの趙雲がひとりで慌てだす。

「ちゅ、昼食のご用意を、致しますっ!」

ポカンとしている劉備へもう一度頭を下げると、彼らしくない騒がしさで厨房に向かって行ってしまった。

独り取り残された劉備は暫く首を捻っていたが、先程の趙雲の様子は照れ隠しからの落ち着きの無さだったのかとようやく気付き、くすくす笑いながら彼の後を追った。

劉備の美しい笑顔を思わぬ時に間近に見てしまってからばくばくと大きく鳴り続ける心臓を落ち着けようと、趙雲は手際よく昼食の準備に取り掛かっている。

劉備が部屋を見て回っている時から火にかけている蒸し物の様子を覗き、すでに下拵えが終わっている材料を手元に揃え次は調味料の確認を、と振り返ろうとした瞬間、後ろから柔らかい重みを感じた。

「っ!?!」

はっと息を詰めた趙雲の背後から、くすぐったそうな笑い声が響いてくる。

「趙子龍の背、取ったり」

後ろから趙雲に抱き付いた状態で、劉備が悪戯気にそう言った。

「あ・・・あの・・・」

上手く言葉が出せない程に緊張して、後ろも振り向けない趙雲に構わず、劉備はその広い背に額を預ける。

「二人しかいないのだ、私にも何か昼食の用意を手伝わせて欲しい」

そう相手に頼んでみたが、返事は無い。

「・・・子龍?」

あまりに沈黙の時間が長いものだから劉備が不思議に思って顔を見ようと伸びあがると、彼は首まで赤くして固まっていた。

酷く驚かせてしまったと知って劉備は慌てて身体を離し、名をもう一度呼んで背を軽くつつく。

「子龍、子龍。・・・火は大丈夫だろうか?」

火、と聞いた趙雲は我に返り、急いで目の前で蒸気を上げている蒸し器を上げ、鉄鍋に残っている湯の量を確認した。

「だ、大丈夫です。申し訳ありません」

念の為と鉄鍋に水を足す趙雲の手元を見ながら劉備はまたやってしまった、と以前と似たような失敗を繰り返した事に気付き、しゅんと肩を落とす。

「すまぬ・・・厨房は気を遣う場所であるのに驚かせてしまって。危うく怪我をさせてしまうところだった」

元気の無くなった声に、趙雲はもう一度竈の様子を確認してから、慌てて劉備へと身体を向けた。

「いいえ!殿、悪いのは私の方です。折角お気遣い頂きましたのに、たいへんなご無礼を。怪我もしておりません、そのように落ち込まれることは、何も」

ううん、と首を振る劉備の表情は冴えない。

「そなたが謝ることはない。私がはしゃぎ過ぎてしまったようだ・・・少し、頭を冷やしてくる。食事の用意はちゃんと手伝うから・・・」

その場を離れようとした劉備の手を、趙雲は咄嗟に掴んだ。

「お待ちください」

寂しそうで元気の無い劉備を、食事の用意と言う理由で放ってゆく訳にはいかない。

手を握ったまま、なるべく寄り添うような声を心掛けて彼は劉備へ問い掛けた。

「殿、いかがなされましたか?なにゆえ、そのように落ち込まれたお顔をなさっていらっしゃるのですか??」

劉備は手を掴まれた瞬間の姿のまま、趙雲に対して横を向いて沈黙している。

自分が言葉を途切れさせてしまったら、この空間には気まずい沈黙しか生まれないと分かっている趙雲は必死に問いを紡いだ。

「教えてくださいませ。どうしたら私は貴方様を再び元気にすることが出来るのでしょうか?」

相手の横顔は何かを言いたそうなのだが、肝心の唇は動かない。

内心では戸惑いながらも、己が相手を寂しい気持ちにさせた自覚はある趙雲は、ゆっくりひとつずつ希望を聞いてゆくことにした。

「お食事を直ぐにご用意する事でしょうか?」

それにはすぐに否、と小さな返事が返ってくる。

「私が、こうして貴方様のお傍に居ることでしょうか?」

劉備の目がちらりと揺れて、その少し後に違う、と言われた。

「では・・・」

「子龍の」

三つ目の問いを口にしようとした時、相手がしょげた声を出す。

「子龍の・・・・・腕の中が、いい」

庭が見える場所で、自分の期待通りに寄り添って貰えなかった寂しさが想像以上に大きかったのだと、劉備は己で言葉にしてから漸く気付いた。

恐らく、今までの相手だったら口に出さなくてもこちらの想いを汲んでくれる筈だと頼り切っていた部分も、自分にかなりあったのだろう。

言葉にするのは大切だと分かったのだがどうしても恥ずかしさが増してしまって、趙雲に願いを伝えた後で劉備の耳が熱くなった。

「ひ、昼間からこのような事を言うのは、その・・・悪いとは、分かっているのだが・・・」

次の言葉が上手く出てこなくて握ってくれている手にぎゅっと力を籠めると、趙雲がその手をゆるやかに引き寄せる。

「このようにすれば宜しいのでしょうか?」

繋いだ手を一度離して、趙雲は両腕で劉備を抱き締めた。

相手の温もりと優しい香りに、劉備の胸の中の寂しさが薄れ、肩の力もふうっと抜けてゆく。

「もう少し強くしましょうか?」

「ううん・・・これで」

ゆるゆると相手の背に手を回すと、彼は劉備の背中を愛おしむように撫でた。

「申し訳ありません。私の気が回らなかったばかりに寂しい思いをさせてしまって」

「ん・・・もう、いいのだ。子龍がこうしてくれているから」

愛おしい相手の声だけ聞こえるように、劉備は目を閉じて胸元に顔を埋める。

暫く竈の前で穏やかに抱き合っていた二人だったが、ふと趙雲が口を開いた。

「先程の」

「え?」

「劉備殿が後ろから抱き付いて来られた時です」

劉備の身体が、ほんの少し趙雲の腕の中で強張る。

「・・・すまぬ・・・随分と驚いただろう?」

言いにくそうなその言葉に、趙雲は小さく笑って素直にええ、と返した。

「とても驚きました。でも、たいへん幸せでした」

続けられた返答に、思わず目を開けて劉備は相手の顔を見上げる。

「幸せ?」

劉備の動きに合わせて、趙雲も目を細めてこちらを見つめていた。

「はい。殿のお声がとても嬉しそうで、愛らしくて・・・その時に振り返ってお顔を拝見しておけば、と今は悔やんでおります。きっと、それはそれは素敵な笑顔が目の前にあったのでしょうに」

腕の中の相手が、恥ずかしそうに目を泳がせる。

「こ・・・子供っぽいことをしたと、分かっている」

「そんな貴方様が好きです」

顔の脇に流している劉備の艶やかな黒髪に己の指を慎重に差し入れ、趙雲はその流れのまま相手の額に口づけを落とした。

「はしゃぎ過ぎだと、叱らないのか?」

額に残る口づけの感覚と、己の髪を梳く相手の優しい仕草に劉備は目元を染めながら訊ねれば、趙雲はまさかと白い歯を見せる。

「あのように楽しそうな劉備殿を間近で拝見できる事こそ、私の幸せなのです」

「今日のそなたは、普段よりたくさん話してくれるのだな」

なんだかいつもと違う、と真顔で言われて、趙雲の笑みが恥ずかしげな様子に変わった。

「私も浮かれておりますから。日中から貴方様を独り占め出来ている贅沢に」

いつも通り生真面目に礼節を守っていると思っていた相手が、実は自分と同じ気持ちだったのだと改めて知った劉備の口元が綻ぶ。

「子龍・・・」

嗚呼、と趙雲が嬉しそうな声を上げた。

「漸く笑って下さいました。やはり劉備殿は笑顔が一番似合います」

にこにこと微笑む相手の頬に片手を添え、劉備は照れ隠しに小首を傾げて見せる。

「ふふ、褒めるのが上手くなったのではないか?子龍の笑顔の綺麗さに、私はとても敵わぬ」

「まさか。劉備殿が先程仰って下さったではありませぬか、趙子龍は嘘をつかぬ、と」

思わぬ反論に劉備が言葉を詰まらせると、趙雲はそのまま話を続けた。

「それに私の笑みは、貴方様の笑顔を拝見出来た喜びから生まれるもの。二番目のものでしかありませぬ」

髪を撫でつけてくれる相手の手を視界の隅に捉えながら、劉備は眉を下げる。

「子龍はそう言ってくれるが・・・私にとってはそなたの笑顔が一番なのだ。だから・・・」

劉備は踵を上げ、つま先立ちになると、そのまま趙雲の顎と頬の中間のあたりへ唇をそっと押し付けた。

「私が一番に好きなのは、そなただ。子龍」

はっと息を呑んだ様子の後、劉備を抱き締め支えていた趙雲の腕に力が籠る。

趙雲の首に腕を回して、劉備は小さく笑った。

「いつも、そなたに言わせてばかりだから。今日はちゃんと伝えられただろうか?」

耳元でしばらく言葉を探すような息遣いの後、わずかに掠れた声が劉備の耳に届く。

「・・・はい。ありがとうございます・・・余りに幸せなお言葉に、己が言うべきことを忘れてしまいました」

回す腕に力を籠め、劉備は相手の言葉にほっと息をついた。

「返事などいらぬ。私が伝えたかったのだ」

「では・・・私は下手な言葉よりも行動でお返し致しましょう」

「行動?」

はい、と相手は抱き締める腕の力を緩める。

それに合わせて劉備も趙雲の首へ回していた腕を解くと、お互いの身体が一度離れた。

「一瞬の無粋をお許しください」

趙雲は劉備へそう告げて、竈の方へ身体を向ける。

そうして蒸気を上げている蒸し器を火から下ろすと竈の火が細くなるように空気孔を調整し、下拵えが終わっている食材たちには虫よけの布を被せると、彼は近くにあった椅子を引き寄せた。

「殿、こちらに」

己が椅子に腰かけ、その膝の上に劉備を横抱きのような姿で抱き上げると、趙雲が熱っぽい瞳でこちらを見上げてくる。

その瞳に引き寄せられるように劉備が顔を寄せると、そのまま唇を奪われた。

お互いに一時の熱を冷ますつもりの口づけだったのに、舌が触れ合った瞬間に先の予定などどうでも良くなってしまう。

息継ぎをする間も惜しいと水音を立てて深い口づけを交わし続ける趙雲と劉備の手は、離れたくないと言わんばかりに自然と指を絡ませ強く握り合っていた。

甘い口づけを交わしながら、ここで相手から先に名を呼ばれてしまったら己のぎりぎりの自制は利かなくなると趙雲は分かっているのに、自分から身体を離すことは既に出来なくなっている。

だが、傍らの昼食用の食材たちがやはり気になって、そちらへちらりと視線を遣った時、劉備の唇がふと離れた。

間近にこちらを見つめている相手に急いで視線を戻すと、目元を赤くした劉備が小さく膨れている。

「いま、上の空だっただろう?」

「も・・・申し訳ありません、つい昼のことを・・・」

「・・・やはりそうか」

正直に白状したら、相手は仕方がないと熱が冷めた顔になって繋いでいた手を離し、趙雲の膝から降りてしまった。

「あの・・・」

「ならば食事をしてしまおう。器の用意を私がすれば良いのか?」

こちらに背を向け、気持ちを切り替えるかのようにさばさばとした様子で食器棚へ向かう劉備の後姿を見た趙雲は、椅子から跳ねるように立ちあがる。

相手の生真面目さは分かっている、時間的に己も年上らしく分別をつけなければいけない、と内心ため息をついている自分を宥めすかしつつ食器棚へ手を伸ばしかけた劉備は、いきなり後ろから力強く抱き締められた。

「こら・・・っ!?」

「殿」

振り返って叱ろうとしたら、そのまま身体を回されて口づけを再開される。

「しりゅ、!んっ・・・」

胸元で折り込まれたようになっている腕を目いっぱい突っ張らせようとしながら、自分から気が逸れたくせに、と文句を言おうとするが、先程よりも深く激しい口づけに加えて強く抱き締める相手の手がこちらの熱を上げるように愛撫にも似た触れ方へ変わっていた。

無理に抑えようとしていた熱が、趙雲から与えられる刺激で再び上がるのに時間は掛からない。

「ん・・・あ、あっ・・・」

相手の唇が一度離れ、こちらの耳たぶや首筋を確かめるような愛撫へ変わっても、劉備の口からは文句ではなく抑え気味の艶を帯びた声だけが零れ落ちるようになっていた。

力を籠めていたはずの腕もいつの間にか趙雲へすがるように彼の服を握りしめ、唇と手から与えられる甘い刺激に身体を震わせるばかりである。

「との」

熱を帯びた囁きが、聞こえてきた。

「欲しいです」

酷く欲情しているような掠れ気味の趙雲の声に、劉備の肩が小さく跳ねる。

己の腰から太腿へと相手の大きな手が下りてゆく感触に、劉備は顔を赤くして声を上擦らせた。

「ま、まてっ・・・ここでは・・・あっ!」

せめて場所を変えてくれ、と言いかけた言葉は、耳たぶを甘噛みされた刺激で途切れてしまう。

「申し訳ありません・・・寝所へお連れすると、もっと堪えが利かなくなってしまいそうで」

着物の前合わせから侵入してきた趙雲の手に己の内腿を直に撫で上げられる感触に身を震わせながら、劉備は必死に首を振った。

「いい、時間なんて、気にしなくていい、から」

ここは嫌だ、と上がった息の中から切れ切れに頼み込むと、趙雲の愛撫がようやく止まる。

真っ赤な顔で息を上げている劉備を、趙雲がじっと見つめた。

「・・・しりゅう・・・?」

乱れた胸元を掻き合わせるようにしている劉備へ、趙雲はいえと短く返し、相手を横抱きに軽々と抱き上げる。

「あの、申し訳、ありません」

力強い腕の中で相手からの謝罪を聞くと、やられっぱなしも悔しいと劉備は手櫛で髪を整えながらわざと不貞腐れた声を出した。

「・・・今更謝られてもな・・・」

「いえ、先に謝っておこうと」

「え?」

どういう意味だ、と訊ねようとした劉備は、自分を抱えて寝所へ向かう趙雲の瞳に宿る熱に気付く。

そして愛されていた途中に耳にした彼の言葉を思い出し、どきりと大きく胸が鳴った。

寝所に着き床に寝かされ、すぐ覆いかぶさるように顔を寄せてきた趙雲へ、劉備が話し掛ける。

「子龍、私からも先に言っておこう」

「・・・殿?」

「事のあとでもう一回謝ったら、今度は怒る」

趙雲の肩に手を掛けて、彼は美しく笑った。

「そなたに愛されることは、私の一番の幸せなのだからな?謝るのはお門違いというものだ」

ふわっと趙雲の頬が赤く染まる。

「あ、ありがとうございます」

「ふふ、急に謙虚に・・・ふぁっ!?」

「ですから、堪えが利かなくなると」

帯を解かれ、素肌に愛おしいひとの手の熱を感じるだけで劉備の息はまた直ぐに上がって来た。

「ん、しりゅ・・・」

「お慕いしております・・・玄徳殿」

時間をかけて相手を受け入れ身体を揺さぶられながらも、劉備は趙雲の片手を握りしめたまま離さない。

趙雲もその手をしっかりと握りしめ、快感を得るたびに身体を震わせる相手の耳元へ思慕の想いを囁き続ける。

幾度目かの繋がりを終えたとき、髪を乱して気だるげな劉備を趙雲が心配そうにその頬を撫でると、彼は大丈夫だと小さく笑んでくれた。

「殿・・・」

「子龍?」

何か言いかけた趙雲の唇に己の人差し指を当てて言葉を封じてしまう。

先程の約束を思い出した趙雲がゆっくり頷くと、劉備は彼を迎えるように腕を広げた。

「少し、眠りたい・・・共にいてくれぬか?」

その言葉に応えて趙雲がしっかりと抱き締めて横になると、暫くして安らかな寝息が聞こえてくる。

やはり無理をさせてしまったか、と独りで後悔をしながらもそれ以上の幸せを感じて、趙雲は微笑むような表情で眠る大切な存在へ柔らかな口づけを落とした。

部屋の外では夕暮れ前の日が差している。

今日は早めの夕飯にしよう、と二人きりの自由な時間のこれからに夢を馳せて、趙雲は劉備の寝顔に掛かる美しい黒髪をそっと整えた。

 

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

ありがとうございました。

そしてお付き合い下さいましてありがとうございました!

ベタベタな二人を書きたくなりまして、と、毎回こんなことを言っている気がしますが。

むそ8の隠れ処をイメージして書いてみました。

でもゲーム中のあの造りでは無防備すぎるので()、身分相応の警備が出来る仕様に変えています。

話中に出てきた弓の練習中も子龍はいい男だなとか、殿の弓姿も素敵ですと見惚れる趙雲とか全然集中できていない二人しか妄想出来ません。

そんな相思相愛な二人だから好きなんですけれども!

次はまた違った二人を書けたらいいなと思っております。