こんにちは。
更新がまちまちとなっておりますが元気です。
最近は新刊の原稿を一生懸命こなしておりました。

6/7に無事、発表済みの短編7本と、本の発行に合わせて書いた書き下ろし1本を含めた短編集を出すこととなりましたので、宜しくお願い致しますー。

一応支部にお試し読みページなど作ってあります。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12993087


さて、今回はブラスト版の簡雍さんと無双の劉備殿とのお話が出来ました。
幼馴染で恋人、という設定は趙劉とはまた違うじれったさなどがあるなあとニコニコしながら書いておりますので、お付き合い頂けましたら嬉しいです。

※こちらのお話は未成年の方の閲覧を禁止しております。了承ください。


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融かす指先 (簡劉)R-18

 

 

 

 諸葛亮が席を立った隙にそそくさと素早く机の上を片付け始めれば、同室の同僚達からはまたかと露骨に顔をしかめられた。

 夕方ではあるが、日はまだ高い。

 業務の終了時刻まではもう少しの筈である。

 向かいの机より、筆を止めて何事か言いたそうに困った顔をしている馬良へ、簡雍はにかりと笑ってみせた。

「今日の分の仕事は終わらせたんだ、固いことは言うなよ?」

 うきうきと机上を片付ける簡雍を眺めながら、白眉は筆を置いて小さく溜息をつく。

「まあ、わたくしが何事か申しましても、簡雍殿がお話を聞いて下さるとは思わないのですけれども・・・流石に何も言わないでお帰りいただく訳にも参りませんので・・・」

 口調は柔らかいが、真面目な馬良の目は笑っていない。

 諸葛亮がこの場に居ない代わりに、その次席を務める彼が簡雍を諫める心積もりのようである。

「簡雍殿は今朝も遅刻なされました。殿や孔明様からお叱りを受けていらっしゃったにも関わらず、今度は早退でしょうか?」

「おう、ちっと用事があってな」

 悪気なく即答した簡雍へ、馬良もにっこりと笑い返した。

「左様でしたか。ちなみに孔明様へ、この事は?」

「いや? 女との約束がある、なんていちいち伝えるか??」

 簡雍は敢えて色っぽい話をにおわせて、無垢そうな相手を驚かせてやろうとしたが、馬良は顔色を変えずに首を傾げている。

「さて・・・致しません、とお答えするべきなのでしょうか、この場合は」

 真面目過ぎて、そういう事柄に関して察しが良くない馬良に、相手を容易に丸め込めると算段していた簡雍の片眉が面倒そうに上がった。

「お前さんなぁ・・・いままで、色恋で騒いだことは無いのかよ。仕事が手に付かないくらいに好いたヤツが、的な話とか」

 簡雍の問いに、首を傾げたままの白眉の頬がほんのり赤くなる。

「色恋と申されましても・・・お仕事と、そういった事は分けておりますので・・・」

 相手の僅かな揺らぎを見付けた簡雍は、ここぞとばかりに楽しそうな顔で机から身を乗り出した。

「お?なんだ、美人な白眉にもイイヤツが居そうな顔してるな。今度飲みに連れて行ってやるからどんな奴か教えろよ?」

 話題を巧妙にすり替えられた馬良が、頬に手を当てながら慌てる。

「で、ですから、それとこれとは・・・今はお仕事の話を、ですね」

 己の勝ちを確信した簡雍は、笑いながら席を立った。

「細かいことは良いんだよ!シゴトだろうがアソビだろうが生きてるって事は一緒だろ?諸葛亮には適当に言っておいてくれや。明日でも俺が叱られれば済む話だ。じゃあな」

「また誤魔化して・・・お待ちください、簡雍殿!」

 馬良の困惑した声を背に、簡雍はさっさと仕事場を後にして、軽やかに歩き出す。

 廊下を歩きながら、白眉も慣れて来たもんだと簡雍は口元を僅かに上げた。

 こちらが本当に仕事を放棄して帰ろうとすれば、彼はあれくらいで赦してはくれないであろうと、何時だったかの馬謖の顔色を思い出す。

『兄上は、あのように姿も物腰も柔らかく、傍からは常に穏やかな人に見えますが・・・本気で怒らせると、それはもう・・・』

 白眉の実の弟の言葉は妙に実感が籠っていて、さすがの簡雍も苦笑いで聞いてやるしか出来なかったが、諸葛亮の義弟になるような人物ならば、芯の強さは本物なのであろう。

 今夜、簡雍に馴染みの女と約束があるのは事実だ。

 だが、その逢引きに他の理由も含まれている事を馬良は察して、程好いところで此方を解放してくれた。

 馬良はその聡明さを劉備や諸葛亮に買われ、簡雍が遅刻や早退の常習者であるもうひとつの理由を知る、数少ない人物でもある。

 彼のもうひとつの理由とは、ヒトの裏側の世界へ入り込むこと。

 夜の飲み屋、光が届かない裏路地、そんな所にも重要な情報は集まって来る。

だが、そういった場所は入ってくる人間を選びたがるのが常識だ。

諸葛亮のような高家の出の者などは入口すら教えて貰えないだろう。

 逆に、酒好きが高じて若い頃からそう言った場所へ出入りしている簡雍にとっては居心地の良い世界だ。

そんな流れから、簡雍は人間の裏側の世界の情報を集める役割を劉軍の中で自然と担うようになっており、それが結果的に劉備を支える事にも繋がっている。

 表側では怠慢を貫いている己が帰った後、同僚達から貴方は甘いのでは、などと馬良は言われているのでは、という思いが簡雍の胸にふとよぎった。

 このところ、呉が妙な動きを見せているとの話があちこちから聞こえてきているせいで、簡雍は裏の仕事が増え、表向きの仕事が更に放置状態になってきている。

 その割を食っているのが、事情を知っている諸葛亮や馬良なのだ。

 さすがの天才、秀才の義兄弟でも、表面しか見えていない輩をうまく言いくるめるのは一苦労であろう。

 悪いな、と心の中で少しだけその二人に謝りつつも、簡雍は今夜飲む酒は何にしようかという楽しみの方を最優先に、鼻歌まじりで城を出ようとしていた。

 城門の出入り口に立つ兵士たちに軽く手を上げた時、背後からぱたぱたと忙しない足音が近づいてくる。

「憲和!」

 焦っているようなその呼び声は、振り向かなくても誰か、簡雍には分かる。

 耳に馴染んだその声を聞こえない振りは出来なくて、簡雍は鷹揚に振り返って腰に手を当てた。

「どうした、劉備?」

 拱手の礼を取る兵士たちに軽く手を上げながら、この国の君主である劉備玄徳が歩み寄ってくる。

 蜀国内で劉備を呼び捨てにしているのは、彼の幼馴染である簡雍くらいだろう、と言われるほどに二人の付き合いは古い。

 城内から奔ってきたのだろう、軽く息を上げながら簡雍の傍までやって来た劉備は、片眉を上げて相手を見据えた。

「お前が仕事をしている筈の部屋へ行ったら、季常が困り切った顔でな、簡雍殿はお帰りになりました、と教えてくれたものだから探しに来たのだ」

「おう、一応馬良に早退の理由は話したぜ。女と約束があるってな」

 首筋へ手を当てて、肩まで伸びた癖ッ毛を払いながら笑う簡雍に、劉備は半眼でほうと返す。

「孔明には話していないようだが?」

「なに、馬良へ話しときゃあ、諸葛亮にもすぐ伝わるだろ?」

 簡雍はいつも通り、他の兵士たちの前で見せる、怠け者の簡雍憲和の調子で劉備へ言葉を返す。

 そうして劉備も、こちらの事情を知っているから適当な所で己を解放してくれるであろう、と高をくくっていたのであるが。

 今日の親友は、難しい顔のままで此方を見据えたままである。

「・・・女か」

 何故だか怒ったような声に、簡雍の中でおやと疑問が生まれた。

「なんだよ、珍しくもねえだろ」

 城門の見張りをしている兵たちが、敬愛する君主と、その幼馴染である女好き酒好きで有名な簡雍とのやり取りを興味深そうに眺めている。

 彼らの様子に気付いた劉備が、簡雍の手首を掴んだ。

「ちょっと来い」

 今までに無かった劉備の言動に、簡雍は少し驚いた声を上げる。

「おい、俺には予定があるって・・・」

「いいから!」

 劉備に引きずられるように連れて来られたのは、人気の無い君主の私庭。

 城からの脱出を阻まれた簡雍は、面白くなさそうに腕組みをして劉備を見つめている。

「玄徳、どういうつもりだ?」

 己が遊びに行くだけではないと知っている筈だろうと言わんばかりの簡雍の口調に、劉備は何とも言えない顔をして目を伏せた。

「・・・仕事か?」

 伺うような劉備の声に、簡雍は今更とでも言いたげな表情で肩を竦める。

「ああ。お前が一番分かっているだろ」

「どうしても、今夜か?」

「向こうが忙しい奴だからな、よっぽどじゃなきゃ変更出来ねえ」

 親友の返答に、劉備はそうか、と声を落として袖口を握りしめた。

 そんな相手のしおれたような姿に、楽しみに水を差されて軽く苛立っていた簡雍の心が一瞬冷えて、おやと腕組みを解く。

「・・・玄徳、何かあったのか」

 ぎゅっと袖口を握ったまま、劉備は足元へ視線を落として言葉を探すような素振りを見せた。

「問題事でも起きたのか?」

 簡雍が重ねて問うと、相手はゆるりと首を振る。

「いや・・・そういった事は無いのだが・・・」

「じゃあ、どうした?話したくて俺を連れて来たんだろ??」

 親友の困り顔を、簡雍は昔からどうにも放っておけない。

 口が重くなった劉備へ歩み寄ると、それに合わせるように相手の指が袖口より離れた。

「玄徳?」

「ええと・・・憲和・・・」

 周囲に人がいない事をもう一度確認した相手からも簡雍へ歩み寄って、二人が寄り添うような距離になった時、劉備の指先が親友へ向かって伸ばされた。

 その長い指が、簡雍の額に垂れているひと房の長い髪を、くるりと巻き取る。

「その・・・駄目、か?」

 こちらの髪を弄びながら、目を泳がせてそう問うてくる劉備の顔は、酷く赤い。

 間近で目にした、たおやかなその様子に、不意打ちを食らった簡雍の胸がどきりと鳴った。

「お前・・・」

 それは、以前二人の間で交わされた、密やかな恋人としての合図。

 今宵を共に過ごしたいと告げる、指先よりの願い。

「い、忙しいのは分かっている・・・だが、このところ憲和と二人で会えていなかったゆえ・・・」

 片手で簡雍の髪に触れ、もう片手は相手のはだけた胸元へ添えながら、劉備は懸命に言葉を紡いだ。

「憲和・・・・・」

 甘えるような声に囚われそうになりながらも、簡雍は動揺を懸命に隠して、視線を相手より逸らす。

「シゴトだって言っただろ?近いうちに時間は作ってやるからな、今夜はいい子にしてろ、玄徳」

 宥めるように背中をぽんぽんと叩いてみるが、劉備は胸元から離れることは無く、逆に潤んだ視線で簡雍の顔を見上げて来た。

「どうしても・・・駄目か?・・・憲和」

 懇願するような視線に気付いてしまった簡雍の心が、早くもぐらつき始める。

 それでも漸く繋ぎが付いた仕事の約束が、彼の残り少ない冷静さを助けてくれた。

 敢えて難しい顔で劉備を見つめて、簡雍は首を振って見せる。

「ダメだ」

 胸元の愛おしい幼馴染の顔が、己の言葉で途端にしおれた。

「・・・そうか・・・・・」

 こちらの髪を絡めていた細長い指が、ゆっくりと音もなく離れる。

 目を伏せた劉備が、簡雍の胸元より静かに距離を取った。

「引き留めて悪かった。お前の時間が空いた時が分かったら・・・教えてくれ」

 しょげきった声で簡雍へようやっと言葉を告げ、劉備は顔を背けてその場を離れようとしている。

 そんな姿を見せられた簡雍は、無言で眉間に皺を寄せながらせわしなく顎髭を撫で、腕組みをしてはそれを解き、だらしなく結った髪へ乱暴に手を突っ込んで頭を掻いた挙句、嗚呼と声を上げて庭を去りかけた劉備の腕を袖ごと掴んだ。

「待て待て待て、玄徳!」

 こちらへ振り向かせた劉備の眼に、うっすらと涙が溜まっている様子に気付いた簡雍は、迷わず相手を己の胸元へ抱き込む。

 赤みが強くなった夕日を眺めて簡雍は眉を下げ、玄徳、と静かな声を出した。

「・・・悪かった、俺の負けだ。今夜はお前と居てやるから」

力強い抱擁と確かな約束の言葉に、劉備の目尻から涙が一粒、零れ落ちる。

「けんわ・・・」

「あああコラ泣くな!趙雲に見つかったら騒がれるだろうがっ!!」

 大仰に声を上げながら、簡雍は劉備の身体をしっかりと抱き締めている。

 昔から、己はこの親友にだけはからっきしなのだ。

 頼まれたら断れない。

 願われたら幸せを感じてしまう。

 ただの付き合いの長い、良い親友として傍に居てやろう、と思っていたのに、親友以上の関係になってしまった今では、完全にこちらがのめり込んでしまっている。

 それが楽しくもあり、しかし時折こんな風に仕事に差支えが出る困りものになったりもするのだが、簡雍は最終的には仕方が無いと笑う事にしていた。

 憲和、と己の胸元で笑ってくれる喜びは、簡雍にとって何にも代えがたい宝物なのだから。

 ただ、彼が心配している唯一の事を除けば、の話ではあるのだが。

 

「っ・・・あっ・・・ん・・・っ」

 ぎし、と寝台が軋むたび、劉備の口から甘い声が漏れ出た。

 夜も更けた頃、灯りが抑えられた劉備の寝室で、簡雍に劉備は抱かれている。

 己の下で、汗を滲ませながらこちらの雄を受け入れて喘ぐ劉備の姿に、簡雍は熱い息を吐いた。

「・・・ホント・・・お前ってやつは・・・」

「・・・けんわ?」

 独り言のような簡雍の言葉を耳にした劉備が、蕩けた表情で相手を見上げるが、彼は何でもないとはぐらかす。

「今夜は締め付けすぎじゃあねえか・・・ってな」

 穿ち込んだ雄身で内をぐちぐちと擦ってやれば、嬌声と共に劉備の顎が上がった。

「やぁっ・・・!そこ・・・っ」

「イイか?」

「ぁ・・・い、イイっ・・・けんわぁ・・・っ!」

 腰を動かしながら、硬く尖った胸の先に軽く歯を立ててやれば、劉備は身体を震わせて悦びを伝えてくる。

 その反応に気を良くして、簡雍は更に劉備の深い所を愛し、劉備も相手の愛情に身を委ね、共に溺れてゆく。

 簡雍が抱える心配とは、劉備との睦み合いの事であった。

声も、身体も、この親友は己にとって好すぎるのだ。

 裏の仕事で時に女とじゃれ合う必要が簡雍にはあるのに、この身体を知ってしまってからは、他が物足りなく感じるようになってしまった。

 だからと言って女遊びを止めてしまえば、仕事にも障りが出て来るのは目に見えている。

 ゆえに、彼を抱くのは控えようと簡雍は敢えて距離を取ろうとしていたのだが。

「け・・・けんわぁ・・・」

 頬を染めて手を伸ばしてくる劉備を、簡雍は抱き締めてやる。

「きょうは、なか・・・に・・・」

 首に両腕を巻き付け、そうねだる相手に、簡雍は苦笑いを漏らした。

「全く・・・ワガママな奴だな」

「だって・・・つぎ、いつ逢えるか・・・」

「何だ、不安なのか」

「不安・・・というか・・・さみしい・・・」

 離れたくないというように巻き締める腕に力を籠めた劉備の言葉を、簡雍は目を細めて受け止める。

 相手の想いを、簡雍は付き合いの長さを言い訳にして今更、などと言う気は全くなかった。

 簡雍の方こそ、身体の関係など思いもしなかった頃から劉備をずっと好きだったのである。

 そんな大切な相手から、こんな事を言われてしまえば。

「おいおい・・・玄徳」

 劉備を抱き締める簡雍の腕にも、力が籠った。

「玄徳。そんな先の悩みなんて考えるな。いつも言ってるだろ、俺はずっと」

―――お前の、ことだけを。

 簡雍の続きの言葉と、劉備の甘い嬌声は、どちらからともなく求め合った口づけによって溶け混じる。

 不器用な好きの想いがいっぱいに込められた逢瀬は、密やかに、甘やかに続いた。

 

 当日に反故にしてしまった約束の代償は、安くはなかった。

 次の約束を取り付ける為の機嫌取りで買ってやったのは、有名な店の着物である。

 それゆえに。

「金がねえ」

 月初めの簡雍の第一声に、劉備の笑い声が庭に響く。

「数日前に給金を貰っていたのではなかったのか?酒家のツケすら払う前だろうに・・・お前の給金は一体どこに消えたのだ」

 いつも通りだな、と朗らかに笑う劉備を、そうなったのは誰のせいだと簡雍は半眼で見つめるが、理由を口にしてしまえば相手がみるみるしょげてしまうのも理解しているので溜息で誤魔化すしか出来ない。

「仕方ねえだろ。シゴトで必要な金だって言ってるのに、あの軍師が変にケチるもんだから・・・」

 二人きりの茶の時間、茶碗を手にぶつくさ愚痴を言い始めた簡雍を、劉備は口元に笑みを残したまま見つめている。

 暫くは城内の飯で我慢するか、と諦め声を漏らした簡雍へ、劉備が穏やかに声を掛けた。

「憲和」

 片眉を上げて呼び掛けた相手へ視線を向けると、彼は美しく微笑みながら軽く握った右手を揺らしている。

「憲和、手を」

 包み込むような声と笑みにつられるように、簡雍が素直に手を差し出すと、その上に小さな巾着袋が乗せられた。

「多くは無いが、足しにしてくれ」

 その言葉に、巾着袋の中身が何であるかを察した簡雍が眉間に皺を寄せた。

「・・・あのな、お前から小遣いをせびるまで、俺は落ちぶれちゃいねえぞ?」

「ふふ、何を言うのだ? それは小遣いなどでは無く、必要経費だぞ。先日の、ほら・・・私のせいで約束を反故にさせた相手への謝罪分・・・という名目でな」

 こちらの言葉に簡雍がますます面白くなさそうな顔をするのは、相手の本音を己がわずかにでも掠ったという事なのだと劉備は知っている。

 だから、彼はそれ以上の深入りはしない。

「謝罪分なのだから、お前の酒代に使うなよ?」

 気軽な調子でそう言うと、簡雍は巾着を懐に仕舞い込んでいつもの不敵な笑みを浮かべる。

「さてな。臨時収入ってやつは大事に取っておくモンじゃあねえって昔から相場は決まってるんだぜ、劉備?」

 玄徳、と呼ばなくなった相手の様子に劉備も何かを察し、小さく肩を竦めて承知の意を伝えた。

「その前に、ツケを払っていない憲和でも入れる酒家があるかどうか、だろうな」

「・・・ちょいちょい手厳しいことを言うよな、お前・・・」

「私が何度、お前のツケ払いの騒ぎに巻き込まれたと思っている?」

「ははは、昔の事なんざ憶えていねえな」

 そんな会話をしていると、諸葛亮を始めとした蜀の中心人物達が続々と集まって来る。

 こういう集まりは面倒だ、と大仰に溜息をつく簡雍の脇腹を劉備は苦笑い混じりに突ついて、いつもの軍議は始まって行く。

 面倒くさい、と言いながら今回もそれなりに軍議に参加している簡雍の横顔をちらりと眺め、劉備は遠回しな幼馴染の優しさに自然と口元を緩めた。

 

 

 

(おしまい)